2020 Fiscal Year Research-status Report
波長別光環境を考慮した建築内植物の生育評価手法に関する研究
Project/Area Number |
20K21038
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田邉 新一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30188362)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 屋内緑化 / バイオフィリックデザイン / シミュレーション / グロースチャンバー / 被験者実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、波長別光環境を考慮した建築内の植物の生育評価手法を提案することを目的としており、令和2年度は主に以下の3課題に取り組んだ。 1)波長別光環境シミュレーション『ALFA』の精度を大学教室での分光放射計を用いた実測により検証した。その後、分光放射照度の実測値や計算値から算出した光合成有効光量子束密度により、植物の光飽和点や光補償点などの知見を利用して建築内の光環境を評価する手法を示した。屋外の分光放射照度の再現が良好な時刻では、屋内の分光放射照度の計算値も実測値と近い値を得た。さらに、屋内で分光放射照度の予測精度が高く得られた解析点では、光合成有効光量子束密度の計算値も実測値と近い値を得た。したがって、本研究で検討した手法は、照明による屋内植物への効率的な補光量の検討や、昼光を有効に活用した屋内植物の配置の検討などに活用可能であると考えられた。 2)オフィス内の環境を模擬した植物栽培箱(グロースチャンバー)で、国内外で多く用いられる3種類の植物を生育させる実験を開始した。環境条件の異なる3つのグロースチャンバーで植物を生育させている。チャンバー内の温湿度とCO2濃度は一般的なオフィス環境を想定した値に統一し、照度と照明時間はチャンバーごとに異なる設定とした。これにより、建築内の光環境の条件が観葉植物の生育の差に与える影響を調査している。チャンバーの環境条件毎に、葉内の葉緑素量の指標であるSPAD値や、葉の枚数に有意な差が生じた。実験は令和3年6月まで行う予定である。 3) 模擬執務室での窓の有無や屋内植物の配置の違いが、在室者の心理や知的生産性に与える影響を分析する被験者実験を行った。窓と植物を併せて設置することで、窓や植物がない場合よりも総合的な環境満足度の申告値が有意に高くなることや、窓があり植物を机上に設置した条件で在室者のリラックスや創造的な作業のしやすさが向上することなどを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は波長別光環境シミュレーションの精度検証実験の結果を、査読付きジャーナルに発表する予定であった。当該研究の成果は日本建築学会環境系論文集に掲載され、目標を達成した。現在は論文を英文に翻訳し、国際ジャーナルへの投稿準備を進めている。また、本研究成果は日本建築学会大会や、空気調和・衛生工学会大会でも発表した。 令和2年度から令和3年度にかけては、グロースチャンバーでの観葉植物の生育評価実験を実施する予定であった。当該実験は令和2年11月に開始し、順調に進行している。葉の葉緑素量などを定期的に測定しており、光合成速度の測定も完了した。本実験は当初の計画通り、令和3年度中に完了する予定である。 加えて、令和2年度は観葉植物と窓を用いたバイオフィリックデザインを計画した模擬執務空間において、在室者の心理量や知的生産性を測定する被験者実験を行った。本実験は既に完了しており、令和3年度は研究結果を分析し、成果を査読付きジャーナルに投稿する予定である。 したがって、総合的な研究の進捗状況として、(2)おおむね順調に進展しているという評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は波長別光環境を考慮した建築内の植物の生育評価手法の提案と、屋内緑化を用いたバイオフィリックデザインが在室者の心理や生理に与える影響に関する知見の獲得を目指し、以下の2課題を中心に研究を進める。 1)オフィス環境を模擬したグロースチャンバーでの観葉植物の生育評価:令和2年度より開始した、光環境条件が異なるチャンバー内での観葉植物の生育評価の実験を完了させる。生育させた植物を分解し、新鮮重量や乾物重量を測定することで、建築内の光環境の違いが観葉植物の生育に与える影響の差を分析する。また、積分球と分光放射計を用いて、植物の葉の分光反射率や分光透過率を測定し、条件毎の植物の光合成速度の差を考察する。研究成果を査読付きジャーナルに投稿することを目指す。 2)屋内植物が在室者の心理や生理に与える効果に関する被験者実験:令和2年度は窓の有無や屋内植物の配置が異なる6種類の室内条件で、被験者に単純作業のタスクをさせる実験をした。令和3年度は当該研究の結果を分析し、成果を査読付きジャーナルに投稿する予定である。また、令和3年度は室内に観葉植物や人工植物が設置されている場合の在室者への影響に関する実験を行う予定である。植物の生育に適した光環境の研究と並行して、人間と植物が屋内で共存する場合の人間の生理・心理反応に関する知見の収集を目指す。 上記2課題のほか、令和2年度に日本建築学会環境系論文集に掲載された波長別光環境シミュレーションの精度検証実験に関する論文を英文に翻訳し、国際ジャーナルであるJapan Architectural Reviewに投稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症により、一部実測・実測を延期したため。大学での対応規定に従い2021年度に実施する。
|
Research Products
(5 results)