2021 Fiscal Year Research-status Report
琉球石灰岩における断層摩擦発熱の検出と活断層地震性すべり評価
Project/Area Number |
20K21050
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
氏家 恒太郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40359188)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大坪 誠 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (70443174)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 結晶方位定向配列 / 焼結 / 熱物性 / 琉球石灰岩 / 宮古島 / 喜界島 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度に宮古島与那原断層において、正断層運動時に滑り面近傍1~3 mmのカルサイトが動的再結晶を引き起こした可能性を見出した。2021年度は、与那原断層から採取した試料の解析・分析を更に進めた。まず、電界放出形分析走査電子顕微鏡を用いて滑り面の微細構造観察を行い、カルサイトの焼結に特徴的な構造(粒子の癒着と三重点)を見出した。この微細構造とカルサイトの焼結実験結果との比較に基づき、滑り面の到達温度は317℃から600℃であると見積もった。更に、与那原断層の母岩である琉球石灰岩の熱物性を測定し、熱拡散率を求めた。そして、得られた熱拡散率及び滑り面の到達温度を考慮した熱拡散モデリング計算を行い、地震時の摩擦発熱によるカルサイトの動的再結晶時の到達温度が少なくとも158℃から288℃以上であることを明らかにした。カルサイトの動的再結晶に加え滑り面の焼結の証拠を新たに見出したことで、琉球石灰岩における地震時の摩擦発熱の証拠がより明確となり、熱物性を測定したことで摩擦発熱時の最低到達温度を示すことが可能となった。
2021年度は更に、喜界島の琉球石灰岩を変位させる断層を対象に地質調査と断層試料採取を実施した。地質調査の結果、喜界島西部に発達する2つの断層から厚さ数ミリのスリップゾーンに沿った滑りの局所化を見出した。偏光顕微鏡下においてスリップゾーンは、宮古島与那原断層と同様に極細粒カルサイトマトリックス中に石灰岩の破砕岩片が取り込まれていることで特徴づけられた。しかし、極細粒カルサイトマトリックスを対象に後方散乱電子回折を検討したところ、動的再結晶を示唆する結晶方位定向配列は見出されなかった。このことは、喜界島西部の断層では、地震性滑りによる摩擦発熱が生じていなかったか、生じていたとしてもカルサイトの動的再結晶を引き起こすほど温度上昇しなかった可能性があげられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宮古島与那原断層からカルサイトの動的再結晶に加え、新たに焼結の証拠を見出したことで、地震性滑り時の摩擦発熱の地質学的証拠がより確固たるものとなった。また、琉球石灰岩の熱物性を測定することで、摩擦発熱時の最低到達温度見積もりが可能となった。新型コロナの影響で熱物性の測定が2021年12月に大幅にずれこんだことなどが影響し、国際学術誌への投稿が遅れたが、2022年度には公表予定である。
沖縄本島中南部、波照間島で予定していた地質調査は新型コロナの影響で実現できなかったが、感染数が大幅に減少した2021年10月に、喜界島で地質調査と断層試料採取が実施できた。喜界島でも宮古島与那原断層と同様に断層滑りが厚さ数ミリ程度のスリップゾーンに局所化している証拠が見出されたが、摩擦発熱の痕跡は得られなかった。これは、対象とした喜界島西部に発達する断層の規模が宮古島与那原断層と比較して小さいため、マグニチュードが小さく摩擦発熱量が小さいことや地震性滑りが生じていなかった可能性があげられる。
以上のように、宮古島与那原断層からは表層付近での活断層地震性滑りに関する地質学的証拠が得られ、喜界島の複数の断層を対象とすることで、断層規模に応じた摩擦発熱量の違いや断層滑りの多様性の可能性が見出された。したがって、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナによる熱物性測定遅延の影響で投稿が遅れた宮古島与那原断層から得られた研究成果に関する論文を国際学術誌に公表する。これにより、地質学的証拠(温度上昇によるカルサイトの動的再結晶及び焼結)に裏打ちされた活断層地震性滑りの報告・提示とし、宮古島における災害リスク評価・防災対策のための地質学的情報提供を行う。
沖縄本島中南部、波照間島のうち少なくとも前者に分布する琉球石灰岩を変位させている断層を対象に地質調査を行い、断層試料を採取する。宮古島与那原断層のように断層規模が大きいと摩擦発熱量が大きくなり、温度上昇によるカルサイトの動的再結晶及び焼結が生じていたか検討するため、沖縄本島中南部に分布する規模の大きい断層を対象とする。採取した断層試料を用いて、偏光顕微鏡、電界放出形分析走査電子顕微鏡システム、後方散乱電子回折による観察・分析・解析を実施し、摩擦熱による温度上昇の影響を調べる。これにより沖縄本島中南部(可能であれば波照間島)における活断層地震性滑り評価を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響により、沖縄本島中南部と波照間島で予定していた地質調査・断層試料採取が実施出来なかったため、次年度使用額が発生した。2022年度に少なくとも沖縄本島中南部(可能であれば波照間時)において地質調査・断層試料採取を実施し、採取した断層試料の観察・分析・解析を実施し、摩擦熱による温度上昇の影響を調べる。
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[Journal Article] Influence of crustal lithology and the thermal state on microseismicity in the Wakayama region, southern Honshu, Japan2021
Author(s)
Maeda, S., Toda, S., Matsuzawa, T., Otsubo, M. and Matsumoto, T.
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Journal Title
Earth, Planets and Space
Volume: 73
Pages: 173
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] Localized megathrust slip controlled by chemical reactions in subduction melanges2021
Author(s)
Ujiie, K., Noro, K., Shigematsu, N., Fagereng, A., Nishiyama, N., Tulley, C., Masuyama, H., and Mori, Y.
Organizer
Japan Geoscience Union Meeting
Int'l Joint Research
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[Presentation] Localized megathrust slip controlled by metasomatic reactions in subduction melanges2021
Author(s)
Ujiie, K., Noro, K., Shigematsu, N., Fagereng, A., Nishiyama, N., Tulley, C., and Masuyama, H.
Organizer
European Geosciences Union 2021
Int'l Joint Research
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[Presentation] Overview of scientific drilling to active backarc basin, Okinawa Trough: ongoing rifting of Eurasian continental margin2021
Author(s)
Otsubo, M., Arai, R., Toki, T., Misawa, A., Oohashi, K., Kubota, Y., Miyakawa, A., Ikegami, F., Regalla, C. and Su, C. C.
Organizer
American Geophysical Union Fall Meeting 2021
Int'l Joint Research
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