2020 Fiscal Year Research-status Report
法花粉学的検査法マニュアルの作成に向けて -検査法の構築・体系化に関する基礎研究
Project/Area Number |
20K21060
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
三宅 尚 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (60294823)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 花粉標本作製法 / 検査法マニュアル / 走査型電子顕微鏡 / 証拠物件資料 / 法花粉学的検査法 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)法花粉学的検査の現状や問題点の把握 法花粉学に関わる文献情報をもとに,証拠物件資料の検査法の記載内容を確認し,検査法自体やその解釈に関する問題点を把握した.人体や衣服資料からの検査試料の処理では,アルコール法や染色のほか,特別な処理を施さない研究事例が多かった.靴泥を含む土壌表層資料からの検査試料の処理では,古生態学分野と同様,多くの事例においてアセトリシス法を標準的な処理法として採用しており,ふるい分け法やアルカリ法のほか,フッ化水素酸法(ケイ酸塩鉱物の除去),重液による比重分離法を併用するものも認められた. 2)従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理 野外で作成した衣服・靴泥資料から検査試料を作成し,古生態・空中花粉分野における従来の代表的な花粉標本作製法である,アルコール法,アルカリ法およびアセトリシス法で処理した.アルコール法では,作業時間が極めて短く試料の再現が可能である一方,花粉内容物や他の有機物が残存したままで花粉外壁の精査が困難なため,検査精度が低くなる恐れがある.ただし,新鮮な花粉が付着した衣服試料の場合,短時間のアルカリ処理と染色を併用することで検査精度は向上した.アルカリ法では花粉内容物や他の有機物が残存する場合があるが,アルコール法よりも外壁の精査に適しており,靴泥試料の場合,試料分散の効果により花粉量が多くなる傾向があった.アセトリシスは花粉内容物や他の有機物のほか,外壁表面の微細な有機物も分解するため,外壁の精査にさらに適していた.アルコール法を併用することで検査精度は大きく向上する一方,酸・アルカリ処理が必要である上,作業時間が長く試料の再現性は不可であった.今後は,証拠物件資料の種類,態様や検査目的に応じ,合理的,効率的に処理し必要な花粉情報を得るための,より簡便・迅速な処理法を構築し体系化する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
法花粉学的検査のための処理法を構築・体系化し,法花粉学者の利活用を前提とした法花粉学的検査法マニュアルを作成することを最終目的として,本年度は1)法花粉学的検査の現状や問題点の把握,2)従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理に関する調査・実験に取り組んだ. 1)に関しては,既存の文献情報を収集・精査し,特に検査法の記載方法のほか,検査法自体やその解釈に関する問題点を把握した.2)に関しては,光学顕微鏡観察を念頭に,古生態・空中花粉分野における従来の花粉標本作製法の特性を点検・整理した.その上で, 2020年10月に,高知市内の都市緑地を踏査した後の靴泥資料に加えて,高知大学朝倉キャンパス内のマネキンに着せた衣服資料(綿・ポリエステル)から検査試料を作成し,アルコール法,アルカリ法およびアセトリシス法により処理した.検査試料の処理において想定される制約のうち,試料量,作業時間,試料の再現性および検査精度の4つの制約を重視し,検査結果をもとに各々の処理法を比較検討した. 1)と2)に関しては,国外からの書籍調達に時間を要し,調査開始が当初の予定より遅れたものの,その後,現在までに収集をさらに進め精査を行っている.3)に関しては,花粉分析などで大学院生の補助を得ることが困難な状況下にあったものの,概ね当初の計画通りに進め,本年度分の調査・実験を完了した.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の遂行に必要な調査・実験の体制を本年度にほぼ整備することができたため,基本的には当初の計画・方法の通りに調査・実験を進める.具体的には,2)従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理を継続して行うとともに,3)他の微粒子の処理法の探索・適用(2021年度)も推し進め,これまでの調査・実験の成果をもとに,4)法花粉学的検査のための処理法の構築・体系化と5)検査法マニュアルの作成(主に2022年度)を実施する.本年度の成果については,学会発表を行うとともに,学術誌において順次,公表する. 2)に関しては,本年度にフォローできなかった春期(2021年4月)のデータを補完する.また,朝倉キャンパスとその近隣に植栽された緑化樹(サツキ・キンシバイ)に接触した衣服資料から,検査試料を作成する(2022年5~6月).次年度以降は,主に走査型顕微鏡観察を念頭に,検査試料処理の実験系を組み立て,想定される4つの制約を重視し,検査結果をもとに各々の処理法を比較検討する.3)に関しては,菌類,微細藻類など,生物由来の他の微粒子の処理法を探索し,各々の処理法の特性を点検・整理する. これまでの成果に基づき,証拠物件資料の種類,態様や検査目的に応じ,合理的,効率的に処理し必要な花粉情報を得るための,より簡便・迅速な処理法を構築し体系化する.さらに,それぞれの処理法を施した花粉写真を多数,盛り込み,処理法とその手順をフローチャート式の図解としてまとめる.
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