2021 Fiscal Year Research-status Report
法花粉学的検査法マニュアルの作成に向けて -検査法の構築・体系化に関する基礎研究
Project/Area Number |
20K21060
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
三宅 尚 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (60294823)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 花粉標本作製法 / 検査法マニュアル / 走査型電子顕微鏡 / 証拠物件資料 / 法花粉学的検査法 |
Outline of Annual Research Achievements |
市街地に逸出・野生化したオシロイバナの花に綿布地試料を擦り付け,付着花粉の外形や表面彫紋を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するための前処理法について比較検討した.前処理法の検討にあたっては,古生態学分野で従来から行われている方法(従来法:アルカリ処理→アセトリシス処理→酸化オスミウム固定→金属被覆)をコントロールとして,金属被覆法(金属被覆のみ)とイオン液体法も考慮した.実験に用いたイオン液体は3種類である([Ch][Lac],[BMI][BF4],[MPP][TFSI]). オシロイバナ花粉は外形が球状で,表面彫紋は発芽口,微穿孔,微小刺の3つで構成される.花粉外壁の間隙にはポーレンコートが存在する.従来法では,アセトリシス処理による膨潤効果で,他の前処理法よりも粒径は20~30%も大きくなるが,表面彫紋の観察結果は良好であった.金属被覆法と,粘性が高いイオン液体([Ch][Lac])法では特に,発芽口と微穿孔の直径が他の前処理法よりも小さくなった.親水性が低くエタノール希釈を施したイオン液体([MPP][TFSI])法では,両者の直径は従来法とほぼ同じであった.これらの結果は,ポーレンコートの除去効果や粘性の高さに起因すると推定できる.微小刺の高さや基部直径に対する前処理法の効果は相対的に小さかった.イオン液体法ではいずれも,試料ドリフトや表面彫紋の破壊に備え,倍率,加速電圧,ビーム電流などの微調整を必要とした. 法花粉学的検査では,検査法が簡便で迅速であること,検査試料の再現性があることが大切である.イオン液体([MPP][TFSI])はやや高価であるが,毒劇物の指定はなく扱いやすい.布地試料の浸潤時間は数分程度で,SEM観察結果は良好である.観察後,試料を他の検査に供することも可能なことから,現段階ではこの方法が前処理法として最適であると判断した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
法花粉学的検査のための処理法を構築・体系化し,法花粉学者の利活用を前提とした法花粉学的検査法マニュアルを作成することを最終目的として,1)従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理と,2)他の微粒子の処理法の探索・整理・適用に関する調査・実験に取り組んだ. 1)に関しては,SEM観察を念頭に,古生態・空中花粉分野における従来の花粉標本作製法の特性を点検・整理した.その上で,衣服資料から作成した検査試料を想定し,オシロイバナ花粉を擦り付けた布地試料を,古生態学分野で従来から行われている方法をコントロールとしつつ,さまざまな前処理法を施し,付着花粉の外形や表面彫紋をSEMで詳細に観察した.検査試料の処理において想定される制約のうち,試料量,作業時間,試料の再現性および検査精度の4つの制約を重視し,検査結果をもとに各々の前処理法を比較検討した.2)に関しては菌類,微細藻類など,生物由来の他の微粒子の処理法を探索し,各々の処理法の特性を点検・整理した.その上で,近年,水分を含んだ生体粒子のSEM観察に適用されるイオン液体法を選び,これを1)の調査・実験に組み込んだ. 花粉分析などで大学院生の補助を得たり,機器を利用したり,成果の公表を行ったりする上で困難をともなう時期があったものの,概ね当初の計画通りに進め,本年度分の調査・実験を完了した.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画・方法の通りに調査・実験を進める.具体的には,1)従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理と2)他の微粒子の処理法の探索・適用を継続して行い,これまでの調査・実験の成果をもとに,3)法花粉学的検査のための処理法の構築・体系化と4)検査法マニュアルの作成を実施する.本年度の成果については,学会発表を行うとともに,学術誌において順次,公表する. これまでに得た調査・実験成果を統合して,証拠物件資料の種類,態様や検査目的に応じ,合理的,効率的に処理し必要な花粉情報を得るための,より簡便・迅速な処理法を構築し体系化する.さらに,それぞれの処理法を施した花粉写真を多数,盛り込み,処理法とその手順をフローチャート式の図解としてまとめる.
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