2022 Fiscal Year Research-status Report
法花粉学的検査法マニュアルの作成に向けて -検査法の構築・体系化に関する基礎研究
Project/Area Number |
20K21060
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
三宅 尚 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (60294823)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 花粉標本作製法 / 検査法マニュアル / 走査型電子顕微鏡 / 証拠物件資料 / 法花粉学的検査法 |
Outline of Annual Research Achievements |
開花した緑化樹(サツキ・キンシバイ)に接触した衣服資料から,検査用の布地試料を作成し,花粉の付着状態や外部形態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するための前処理法について比較検討した.実験には綿の衣服を用い,布地試料の表面を手で払う処理も施した.前処理法として,昨年度のオシロイバナ花粉のSEM観察結果をもとに,従来法(アルカリ処理→アセトリシス処理→酸化オスミウム固定→金属被覆)のほか,金属被覆法とイオン液体([MPP][TFSI])法を適用した. 布地試料には1平方センチメートルあたり数百~千粒の花粉が付着していた.サツキ花粉は数珠玉状に連なる状態で,キンシバイ花粉は塊で付着していた.試料表面を手で払った場合,花粉塊がほどけ分散するものの,繊維に絡まったり凹部にはまり込んだりする形で,半数程度の花粉が残存した. サツキ花粉は四面体形,微粒・細畝状紋で,粘着糸をもつ.キンシバイ花粉は長球形,微穿孔状紋である.サツキ花粉の微粒・細畝の間隙と,キンシバイ花粉の微穿孔の長径は,0.1マイクロメートルオーダーと微細である.従来法では粒径が大きくなるものの,表面彫紋の観察結果は良好であった.金属被覆法とイオン液体法でも,外形と表面彫紋の特徴を充分に捉えられるが,前者では外形がしばしば変形し,微粒・細畝間隙と微穿孔が埋没しがちであった.後者では,表面彫紋の詳細観察のため溶液濃度を下げると,試料ドリフトや表面彫紋の破壊のリスクが増大するため,倍率,加速電圧,ビーム電流などの微調整を必要とした. 開花した緑化樹に接触すると,多数の花粉が付着すること,手で払っても約半数の花粉が残存しその態様が変わることは,衣服資料を証拠物件として犯罪捜査を進める上で重要である.簡便・迅速性,試料の再現性なども考慮すると,現段階ではイオン液体法がSEM観察のための前処理法として適していると判断する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
法花粉学的検査のための処理法を構築・体系化し,法花粉学者の利活用を前提とした法花粉学的検査法マニュアルを作成することを最終目的として,従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理と,他の微粒子の処理法の探索・整理・適用に関する調査・実験に取り組んだ. 昨年度の研究成果を踏まえ,開花した緑化樹(サツキ・キンシバイ)に接触した衣服資料から,検査用の布地試料を作成した.古生態学分野で従来から行われている方法をコントロールとしつつ,金属被覆法とイオン液体法も適用して,花粉の付着状態や外部形態をSEMで詳細に観察した.特に検査試料の前処理の簡便・迅速性と試料の再現性を重視し,検査結果をもとに各々の前処理法を比較検討した. 他方,調査・実験の実施や機器の使用,大学院生による研究補助,成果公表などにおいて困難を伴う時期があったため,これまでに得た調査・実験成果を統合して,法花粉学的検査のための処理法を構築・体系化し,法花粉学的検査法マニュアルを作成するまでに至らなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画・方法のうち,従来の花粉標本作製法とその特性の点検・整理と,他の微粒子の処理法の探索・適用に関しては,本年度までの取り組みが不充分であったマネキンに着せた衣服資料の作成を再度,実施し(2023年4・9月),主にSEMを用いた付着花粉の外形や表面彫紋の詳細観察を行う.SEM観察のための検査試料の前処理に関連して,ナノスーツ法の適用についても検討を進める. これまでに得た調査・実験成果を統合して,証拠物件資料の種類,態様や検査目的に応じ,合理的,効率的に処理し必要な花粉情報を得るための,より簡便・迅速な処理法を構築し体系化する.さらに,それぞれの処理法を施した花粉写真を多数,盛り込み,処理法とその手順をフローチャート式の図解としてまとめる. 本年度の成果については,学会発表を行うとともに,学術誌において順次,公表する.
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Causes of Carryover |
調査・実験の実施や機器の使用,大学院生による研究補助,成果公表などにおいて困難を伴う時期があり,研究に遅滞が生じたため.
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