2020 Fiscal Year Research-status Report
フェムト秒レーザー励起による相転移歪を有する結晶間の超高速相変化機構の確立
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20K21070
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
市坪 哲 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40324826)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷村 洋 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70804087)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 光相変化 / 超高速相転移 / 結晶-結晶相転移 / レーザー誘起 / 電流誘起 |
Outline of Annual Research Achievements |
DVD/Blu-rayで使われている光相変化材料では,光励起による結晶-アモルファス間の高速相変化機構が採用されている.本研究では,従来の機構よりも省エネルギー・高速化を可能とする新しい相変化機構として「結晶-結晶超高速相変化機構」を考え,そのような機構を有する高速相変化材料を試作できるか否かを探査することを目的とする.
Peierls歪が系の安定相を支配している従来材料に代わり,試料に導入した界面拘束歪が相の安定性を支配し,室温において低温相や高温相を準安定に保ち,相変化材料としての利用を可能にする機構を実現する.これにより,従来型の「結晶-アモルファス相変化」ではなく「界面歪アシスト型の結晶-結晶高速相転移機構を有するメモリ材料」という分野を構築することを目的とする.
2020年度は,約200℃という比較的低温で低温相から高温相へ転移することが知られているVTe2に着目し,層状単結晶試料の作製し温度/光誘起相転移挙動の観測を行った.単結晶を育成し,温度制御X線回折測定やラマン分光測定によりサンプルキャラクタリゼーションを行い,相転移温度の決定や,振動モードの決定を行い,時間分解分光測定では光励起後のVTe2の構造の指標となりうるコヒーレント光学フォノンモードの観測に成功した.この振動の時間分解的な解析を行うことにより,VTe2の光誘起相転移過程について,詳細な知見を得ることが可能である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度はVTe2に着目し,層状単結晶試料の作製,温度/光誘起相転移挙動の観測を行った.
VTe2は,約200℃でCharge Density Wave(CDW)と呼ばれる低温相を実現し,その秩序状態が崩壊して高温相へ相転移(CDWの融解)することが最近になって報告されている.従来の状態図では,この相転移はV元素が欠損した不規則相が高温相であるとして考えられてきたが,200℃付近では上述の相転移挙動を起こすことが示唆されてきた.本研究では,コヒーレントフォノンの周波数解析から,そのような相転移の足掛かりを捉えることに成功した.具体的には,78Kにサンプルをセットし,レーザーフルーエンスを変化させてい行くことにより,低励起の場合には観測されない高温相特有の振動モード(約4.5THz)と考えられるコヒーレントフォノンが観測されることが明らかとなった.これは,レーザーフルーエンスを上げることによるCDWの融解を強く示唆しているものと考えており,この結果は最近のAdvanced MaterialsやNano Lettersなどの報告と矛盾しない.
VTe2は比較的低温で原子の拡散を伴わない相転移を示す物質であり,本研究の遂行のためのモデルとなる物質である.応用研究を行う上で,研究対象となる物質のバルク状態における性質を把握しておくことは極めて重要であり,2020年度はその実験的測定に概ね成功している.したがって,研究は概ね順調に進展していると言える.今後さらに実験結果の解析を進めることにより,VTe2の超高速光応答をより深く理解する.2020年度に得たバルク単結晶VTe2についての諸特性についての知見をもとに,界面格子歪みを導入した試料の作製,光学・電気特性の評価を行い,界面格子歪みが物性に与える影響についての詳細な情報を得て,本研究の目的である新規相変化技術の基礎の構築を目指す.
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Strategy for Future Research Activity |
目指したい相転移は,結晶-結晶相転移であるので,VTe2はその意味で非常に適しているといえる.本研究および他の研究でも示されているようにCDWが200℃で融解するということは,その状態が比較的高温でも安定であることを意味している.今回の実験においても,レーザーフルーエンスがある程度高い条件でないと,そのような高周波モードが出現しないということが示されているので,その意味でもVTe2のCDWをより早く低温で融解させることが重要となる.そこで,本年度の計画としては,本研究の主目的である格子歪みを導入することにより,より低いフルーエンスで融解できるかどうかを検討することとする.歪みの導入に伴い,レーザーポンプによる物性の制御,特に結晶相転移温度の制御についての研究に注力する.
格子歪みの導入法としては,主に熱膨張率の差を利用した方法で試料内部に残留歪を閉じ込める方法を利用する.また,2020年度に本研究室に導入された万能試験機を利用することも計画している.スパッタリング法を用いて,金属基板上に測定物質を多結晶薄膜として堆積させ,万能試験機により基板に塑性変形を加えるなどの引張残留応力を導入すれば,薄膜サンプル自体に引張応力が印加された状態を作りだすことができると考えている.この応力の有無による静的および(レーザーポンプ後の)動的な物性(電気抵抗や反射率など)の変化,相転移温度の変化などの調査を行う.物性変化を調査する手法としては,高温/低温XRD,DSC測定,温度可変ホール効果測定などを計画している.さらに作製した試料に対して,同様の時間分解分光測定を行い超高速光応答を調べる.本年度の計画の遂行により,界面拘束歪に利用した,歪誘起相転移機構・および相安定性機構・光誘起構造相転移の可能性についての知見を明らかにすることが可能である.
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Causes of Carryover |
予算申請時には,界面歪み導入の有無に置ける物性値測定のため,ホール 効果測定 装置 の購入を計画しており,そのための費用を計上していた.20年度の途中,ホール効果測定のためのコントローラのみを購入し, 磁場 を印加 するための永久磁石制御 装置 は自作するように計画を変更した.それにより申請予算よりも 少ない 額の執行を行ったため,余剰予算の次年度への繰越を行った.
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