2020 Fiscal Year Research-status Report
Functional thin films preparing anti-stick and anti-seizure functions
Project/Area Number |
20K21078
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大竹 尚登 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40213756)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
Keywords | テトラヘドラルアモルファス炭素 / DLC / 耐焼付き性 / 耐摩耗性 / コーティング / 積層膜 / グラファイト化 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属,グラフェンと,ダイヤモンドの50%以上の硬さを有するテトラヘドラルアモルファス炭素(ta-C)を多層積層した,耐接着・焼付き性と低摩擦・耐摩耗性を両立した薄膜構造を提案し,真空アーク放電を基礎とした薄膜作製装置を試作して提案した薄膜構造を作製し,耐接着・耐焼付き・耐摩耗性コーティングを実現し,コーティング薄膜の体系に新たな潮流を創出することを目的としている。そして,これまでの表面コーティングの研究成果では実現不可能である「耐摩耗性と耐付着性を両立させた表面」の形成に挑戦することが,本研究最大の意義である。 本年度は,パルス真空アーク放電を基礎とした新気相成長装置の開発を行った。まず,パルス電源を改良し,ta-C作製に適した1Pa程度の低圧力下で駆動するパルス制御を実現した。さらに1000℃まで加熱可能な基板ホルダを購入・設置して,ta-C堆積装置を完成させ,ta-C膜の堆積実験を行った。そして,研究予定を前倒しして,ta-C・銅・ta-Cの3層構造膜の作製を行った。銅膜は,直流マグネトロンスパッタ法により作製し,膜厚は46~54nmである。この積層膜について,銅とta-C膜との界面の炭素をグラファイト化させることを意図して500℃で熱処理を行った後に,スコッチテープによる剥離試験を行った。その結果,熱処理の有無によらずta-C/Cu/ta-C膜の3層積層膜において銅とta-Cとの間で選択的に剥離することに成功した。剥離加重は,熱処理を行った場合のほうが小さかった。また,ボールオンディスク法による耐摩耗試験の結果,熱処理を行わない積層膜は,行った積層膜と比較して耐摩耗性が5倍以上高いことがわかった。以上のことから本研究で提案する積層膜は,熱処理条件を適切化することで,耐接着・耐焼付き・耐摩耗性コーティングとして機能することが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,研究予定を前倒しして,ta-C・銅・ta-Cの3層構造膜の作製を行ったので,当初の計画以上に進展していると判断した。そして,概要に記したとおり,本研究で提案する積層膜は,熱処理条件を適切化することで,耐接着・耐焼付き・耐摩耗性コーティングとして機能することを明らかにしている。また,積層膜の作成手順としても,以下を提案している。①Si(CH3)4を原料として,CVD法によりa-Si:C中間層を100nm堆積,②真空アーク放電によりta-Cを堆積,③スパッタによりCuを堆積,④加熱によりCu直下に多層グラフェンを形成,⑤ナノパルススパッタによりta-Cを堆積する。 さらに,どんな強粘着物質が付着しても剥離することを確認するため,瞬間接着剤(アロンアルフア, 東亞合成製) が付着しても剥離できるか剥離試験を行った。熱処理なしのサンプルに対して,Si基板とAl板,DLC Ⅱ膜とガラス板それぞれに,瞬間接着剤を1滴ずつ滴下して接着し,40秒後に剥離試験を行った。その結果,Cu/DLCⅡ界面で剥離が生じ,ガラス板にDLC Ⅱ/Cu膜が付着した。剥離面を観察すると,滴下した瞬間接着剤が広がった円状に剥離していた。剥離後表面をラマン散乱分光分析した結果,第一層であるDLCⅠ膜がSi基板上に残存したことが確認された。同様な条件でSi基板上にDLC膜のみを作製した試料で剥離を試みた結果,Al板とSi基板間で剥離が生じ,DLC膜の単層構造に剥離は発現しなかった。このことからも,本積層膜は耐接着・耐焼付き・耐摩耗性コーティングとして機能することを明らかにしている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ta-Cは機械的特性に優れるが,剥離性を付与できない。そこで,ta-Cが耐摩耗性を発揮し,付着が発生した際に直下のグラフェン層で剥離することにより焼付きを抑止し,かつ下層のta-Cが発現し耐摩耗性を担保する設計を考える。今年度の作製したCu膜・グラフェン層が,耐摩耗性と耐接着性にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。次に,多層積層膜を作製する。n=5~100組の膜を作製し,耐摩耗性と耐接着性がn値によってどのように変化するかを評価する。ここで鍵となるのは,接着・焼付きの生じたときに,上層から順に1組(ta-C+Cu+グラフェン)ずつ剥離させるメカニズムである。既にCuがta-C上に島状成長する知見を得ているので,n=1の状態ではCuの面積を小さくし,下層から上層に向けてCuの面積を拡大することでグラフェン生成割合をCuに合わせて変化させることにより,上層からの剥離を可能にする。これらの結果を総合することで「表面の接着や焼付きを許さない」革新的低摩擦・耐摩耗薄膜を提案する。そして,摩擦摩耗試験機に光ファイバー利用の見える化機構を組み込み,サファイアレンズで摺動部を直接観察しながらボールオンディスクまたはピンオンディスクの摩耗試験を行うことにより本積層膜の摩擦現象を詳細に検討する。特に,焼付き・負荷状態で表面が変化する多層膜の摩擦摩耗時の挙動を明らかにする。さらに,焼付きと摩耗の双方が大きい問題となっている,ウレタン樹脂+SiC粉末+ガラス繊維の複合材料成形用の金型ピンに,本研究で提案する積層膜作製技術を適用し,現在止むに止まれず使用している潤滑剤と離型剤を用いることなしに,成形が可能かどうかを確認し,本技術の優位性とさらなる改善点を抽出する。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により実験回数が減少し,また国内外の出張を行えなくなったため,物品費,旅費が減少した。今後の使用計画としては,実験の回数を増加させ,銅とta-C間のグラファイト化の分析について透過型電子顕微鏡を用いた詳細な観察・分析が求められることが明らかになり,こうした分析費に研究費を配分することとする。学会についても参加に注力する。
|