2021 Fiscal Year Research-status Report
理論計算科学とデータ科学の融合による新規化学蓄熱材の創成
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20K21082
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
豊浦 和明 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60590172)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 化学蓄熱 / 水和物 / 無機結晶構造データベース / 高速スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
エネルギー自給率の低い我が国において持続可能な社会を実現するためには,エネルギーの有効利用は喫緊の課題である.しかし,日本の一次エネルギーの約6割が熱として捨てられており,その大部分は100-250℃の低温産業廃熱や自動車排熱である.化学蓄熱技術はこの低品位熱エネルギーの有効利用を可能にする画期的な技術として注目されているが,社会実装に適した反応系は見出されておらず現時点で実用化の目途は立っていない.そこで本研究では,多数の無機化合物が収録されている無機結晶構造データベース(ICSD)を理論計算科学とデータ科学の融合手法で高速スクリーニングすることにより,新たな反応系の網羅的かつ効率的な探索に挑戦する. 前年度,ICSDのスクリーニングにより,化学蓄熱の有望系として報告のある硫酸ランタンより蓄熱密度が高いと予想される系を14件見出した.今年度は,その中で最も蓄熱密度が高いと予想されたリン酸アルミニウムAlPO4/2.33H2Oに着目し,その試料合成および脱水・水和反応挙動の調査を試みた.具体的には,Al(OH)3,H3PO4水溶液,HCl水溶液の液相反応法により対象相の作成を試みた.その結果,2.33水和物は得られたが,1.5水和物も第二相として同時に得られる結果となった.生成物中における両相の混合比は,仕込み組成や冷却速度に依存するが,2.33水和物の単相を獲得するには至らなかった.一方,1.5水和物については単相を獲得することができたため,この相の脱水水和挙動を熱重量測定により調査した.その結果,本系は可逆的かつ速やかな脱水・水和反応が可能であることが明らかとなった.水和物から無水物への重量変化率は19%であり,硫酸ランタンより6倍以上大きい.このように,硫酸ランタンの優れた脱水・水和挙動を維持しつつ,蓄熱密度の高い系をICSDスクリーニングにより抽出することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度,“La2(SO4)3/H2O系の優れた脱水・水和挙動”と“高い蓄熱密度”を併せもつ新たな反応系をICSDスクリーニングにより抽出した.今年度の実施予定項目は,主に抽出した有望系の化学蓄熱特性の実験的検証であり,水和量が最も大きいと予測された有望系のひとつであるリン酸アルミニウム系水和物の試料合成および脱水・水和挙動の調査を行った.その結果,ICSDから抽出された2.33水和物の単相を得ることはできなかったが,1.5水和物の単相試料の合成には成功した.また,この試料に対して熱重量測定を実施したところ,水和物から無水物への重量変化率は約19 %であり,過去に有望系として報告されているLa2(SO4)3/H2Oの6倍以上の水和量となった.さらに,本系は可逆的かつ速やかな脱水・水和反応を繰り返すことも確認された.このように,過去に報告された有望系の優れた脱水・水和挙動を維持しつつ蓄熱密度の高い系をICSDスクリーニングにより抽出できたことから,本研究は「おおむね順調に進展している」といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も2021年度と同様,ICSDの高速スクリーニングで見出された候補反応系について,それらの蓄熱材料としてのポテンシャルを実験的に検証する.具体的には,ランキング上位の候補材料について試料合成・蓄熱性能評価を実施し,それらの実用可能性を検討する.現時点では,ケイ酸銅系の水和物に着目し,その合成および脱水・水和測定を実施する計画である.
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Causes of Carryover |
当該年度は,コロナ禍のため学会や会議が中止・延期・オンライン開催となったため,通常必要な情報収集や成果発表に掛かる旅費が一切不要となった.この状況は前年度から継続していることも,次年度使用額が膨らんでいる要因のひとつである.なお,この繰り越し分は,次年度の実験消耗品の購入と計算資源確保に充てる予定である.
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