2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K21099
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中村 潤児 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40227905)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
Keywords | メタノール合成 / Cu触媒 / 反応ダイナミクス / 振動励起 / 表面科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
CO2-メタノール転換の平衡転化率を上げるためには、反応温度の低温化が不可欠である。既に我々は、CO2を中間体のフォーメートへ水素化する過程については、低温化が可能であることを示した[J. Quan, J. Nakamura et al., Nature Chem. 11, 722 (2019)]。問題は、フォーメートをいかに低温でメタノールにするかであるが、そのためには反応メカニズムを明らかにしなければならない。今回、200 Kに冷却したCu(111)モデル表面と原子状水素を用いた水素化というアプローチにより、フォーメートの水素化機構を明らかにした。CO2の水素化によるメタノール転換反応では、Cu-ZnO系触媒を用い、実用的な反応速度を得るために反応温度を250 ℃程度に設定する。ところが、理論的な転換効率限界に相当する平衡転化率を考えると、250 ℃付近では20 %程度、150 ℃では80 %程度であるため、CO2-メタノール転換反応の高効率化には反応温度の低下が極めて重要である。我々は最近、CO2の振動励起を行うことによって、反応の第一ステップであるフォーメートの水素化が1010倍の効率で進行することを明らかにし、反応の低温化への道筋を一つ明らかにした。今年度は、フォーメートからの水素化の進行過程を調べ、原子状水素の存在によって200 Kという低温でも反応が進行することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
原子状水素とフォルメートの反応実験において大きな進捗があった。表面温度 313 K の Cu (111)表面上に酸素 500 L、ギ酸(HCOOH)500 L をそれぞれ曝露することで生成したフォルメートに対し、表面温度を 200 K に冷却して原子状水素 44 L を曝露し水素化を試みた。また、この間の表面上の吸着種の状態を反射赤外吸収分光法(IRAS)により測定し、水素曝露後には TPD 測定を行い、生成物の解析を行った。まず、フォルメートを生成させた Cu (111)表面の基板温度を 200 K に低下させて IRAS 測定を行った。その結果、比較的高い温度領域で観測されるバイデンテートフォルメートに加え、不安定なモノデンテートフォルメートの生成が観測された。基板温度が 313 K から 200 K へと低下した場合、バイデンテートフォルメートの約 30%がモノデンテートフォルメートに遷移し、再び 313 K に上昇させるとモノデンテートフォルメートはほぼ全部がバイデンテートフォルメートに遷移した。したがって、2 種類のフォルメートが表面温度に対し可逆的に変化することがわかった。次に、Cu (111)表面上に生成したフォルメートに対し、基板温度を 200 K に低下させ、原子状水素の曝露を行った。その結果、水素曝露量の増加に伴いフォルメートが減少し、メタノール合成反応において経由するとされる中間種の一種であるジオキシメチレン種(H2COOad )とみられる新たな中間種を観測した。また、水素曝露後に昇温脱離(TPD)測定を実行した結果、ジオキシメチレン同様、経由するとされる中間種の一種であるホルムアルデヒドを初めて観測した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策のひとつは、Cu触媒によるメタノール合成におけるZnの効果を明らかにすることである。Znを部分的に蒸着したCu(111)表面での素過程のキネティクスを精密に測定し、Znの役割を定量的に明らかにする。すなわち、低温でフォルメートからメタノールへ水素化する可能性を実験的・理論的に調べる。特にジオキシメチレン種の挙動に着目する。 第二のポイントは、CO2選択励起型の反応器を作成することである。流通式かつ内部加熱方式の反応器内部に遠赤外ヒーターを組み込み、CO2分子を選択励起・加熱する装置を構築する予定です。この装置を用いて、メタノールの低温合成を目指す。
|
Causes of Carryover |
本研究の実施項目は3つに大別され、i)表面科学的手法を用いた触媒反応素過程のダイナミクスおよびキネティクスの測定、ii)計算科学による触媒反応素過程の反応座標の計算、iii)触媒システムの設計として、触媒表面設計およびエネルギー選別供給リアクター設計からなる。当初、令和2年度はこれらの3つの実施項目を同時並行して進める予定であった。しかし、COVID-19の影響により実験に十分な時間を費やせなくなったため、i)とii)の実施項目に注力した。計上していた予算は主としてiii)のCO2選択励起型反応器の作製に使用する予定であったが、装置設計段階で令和2年度を終えざるを得なかった。令和3年度には早期に反応器試作を完了し、令和3年10月~11月には反応実験を開始する予定である。
|