2020 Fiscal Year Research-status Report
マルチスケール反応拡散モデル構築による薬物送達のための腹膜播種巣の統合的理解
Project/Area Number |
20K21101
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 大知 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50447421)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北山 丈二 自治医科大学, 医学部, 教授 (20251308)
太田 誠一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (40723284)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | DDS / マルチスケール / 腹膜播種 / 反応拡散 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
がん組織間質中の細胞外マトリックス(ECM)は、抗がん剤の腫瘍内への浸透を妨げる要因の一つであり、その溶解や産生制御によって薬物浸透性を向上させる戦略が注目を集めている。令和2年度は、ECMの主要構成要素の一つであるヒアルロン酸を分解酵素で分解することを想定し、予備検討で構築した腹腔と腹膜播種巣内における物質移動のマルチスケールモデルを用いて、薬物浸透性に対するECM中のヒアルロン酸密度の影響を検討した。その結果、ヒアルロン酸密度の減少に伴い、薬物の播種層内への浸透深さが上昇することが確認された。一方で、浸透深さの変化は最大で10%以下であり、その効果は限定的であった。間質圧と腹腔圧の差によって駆動される間質液の対流が浸透を阻害していることがこの原因と考えられ、間質圧の制御が薬物浸透性を向上させる上で重要な因子であることが示唆された。 以上の検討で用いたモデルでは腹腔から血管への薬物移行は総括の速度定数で表現されていた一方で、実際には薬物は毛細血管を介した腹膜の透過及びリンパ管を介した輸送のいずれかの経路で血管へと移行する。低分子薬剤では腹膜の透過が主な機構であるのに対し、 薬物キャリアを用いたDDSでは、キャリアのサイズが大きいためリンパ管による輸送が支配的になることが予想され、この影響を詳細に検討する必要がある。令和2年度は、腹膜の透過及びリンパ管を介した輸送の両方を考慮に入れ、播種巣と腹腔、血管、リンパ管の4つのコンパートメントからなるモデルを新たに構築した。また、腹腔内から薬物が徐放される効果も、モデルに組み込むことができた。今後、このモデルにDDSキャリアのサイズやがん細胞への標的化の影響を組み込むことで、これらの因子が治療効果にどのように貢献するかを定量的に明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までの検討で、基礎となるマルチスケールモデルを構築し、ECM分解や薬物徐放の影響の組み込みも行うことができた。よって、現在のところ研究は概ね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで構築したモデルに、さらにDDSキャリアのサイズやがん細胞への標的化の影響を組み込む。さらに、血管密度分布の不均一性や、抗がん剤濃度による細胞死の判定等を組み込む。これらにより、がん微小環境を反映した播種巣内部の反応拡散モデルと腹腔・全身循環を結合した新たなマルチスケール薬物動態モデルを確立し、システム的理解に基づきDDSキャリア設計やECM制御戦略の指針を定量的に提示することを目標とする。
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