2020 Fiscal Year Research-status Report
Cleaved surface of intermetallic compounds as short-life catalysts.
Project/Area Number |
20K21103
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小松 隆之 東京工業大学, 理学院, 教授 (40186797)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | ボールミル / 粉砕 / 金属粒子 / 金属間化合物 / 触媒作用 / へき開面 / 露出面 |
Outline of Annual Research Achievements |
結晶を機械的に破断すると、へき開により新規な表面(新生表面)が現れる。2種の元素からなる結晶を破断したとき、へき開直後の新生表面はバルクの結晶構造を反映した原子配列を持つと考えられる。しかしこの新生表面は不安定であり、速やかに表面近傍の原子が移動して、バルクとは原子配列が異なる安定化した表面が形成される。このように機械的に形成される新生表面は不安定かつ短寿命であるため、その触媒作用に関する報告例はない。本研究では、長周期の規則性を持つ合金である金属間化合物を取り上げ、破断した直後に生じる新生表面が有する触媒特性を解明することを目的とする。 この目的を達成するには、新生表面が安定化する前に触媒反応を進行させる、すなわち表面形成後すぐに反応物分子と接触させることが求められる。そこで、反応物と触媒粒子を密閉容器に入れてボールミルによる機械的粉砕(ミリング)を行うことにより、反応物中で新生表面の形成を目指す。反応を十分進ませるには、新生表面を供給し続ける必要がある。ミリングによる粉砕においては、結晶の崩壊だけでなく再結晶化も進行し、やがて両者の速度が同じとなる。したがって本手法では、ミリングを続ける限り破断と再生が繰り返され、その結果新生表面を連続的に反応系に供給することができる。これは、失活した触媒活性点をその場で再生できることに相当する。金属結合性に加えてイオン結合性をもつため金属間化合物は脆く、微粒子化し易い。すなわち本研究において金属間化合物は、目的達成のための最適物質と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
雰囲気制御遊星ボールミル(フリッチュ・ジャパン、P7)およびタングステンカーバイドボールを計画通り購入した。設置後のテスト運転において、装置の作動状態に問題がないことを確認した。そこでまず初めに市販のニッケル粉末を触媒に用いて、ミリング条件(試料とボールの質量、回転速度、粉砕時間など)を検討した。触媒反応として、アセチレンの水素化反応を実施した。 ミリング時間を10分間とし、ミリングの回転数を検討した。タングステンカーバイドボールのみでミリングした場合、200~800rpmのいずれの回転数においても、アセチレンの転化率は数パーセント程度であった。一方、予め水素中でのミリングを行った後にアセチレンの水素化反応を実施したところ、700rpm以上の回転数では、アセチレン転化率が10パーセントを超えることがわかった。600rpm以下の回転数においては、アセチレン転化率は数パーセントであったことから、600rpmの回転数を10分間継続する条件を触媒活性評価に用いることにした。 Ni粉末(1g)を触媒に用い、600rpmの回転数を10分間継続する条件にて、アセチレンの水素化反応を実施した。その結果、アセチレンの転化率は90パーセントに達した。この時、主生成物としてエタンが得られ、微量のエチレンが生成した。回転時間を10分から1分に短縮することで、アセチレン転化率は60パーセントまで低下したが、エチレンの選択率は増加した。これらから、Ni粉末を触媒に用いた場合では、エチレンの逐次水素化が進行しやすいことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
初めに金属間化合物について検討する。第一に、NiとSn、Ge、Ga、Bi、Pbなどの典型元素の組み合わせから成る金属間化合物を取り上げる。1年目においてNi金属粉末を用いて明らかにしたミリング条件と触媒特性の関係を参考にして、粉砕下でのアセチレンの水素化に対するこれらの金属間化合物の触媒活性・選択性・寿命を明らかにする。走査型電子顕微鏡による粉砕前後の化合物の形状観察、窒素吸着による比表面積測定、粉末X線回折による結晶構造の同定などを行い、粉砕が及ぼす金属間化合物粒子への影響を明らかにする。選択性については、アセチレン転化率とエチレン選択率の関係を求め、同じ転化率のデータを比較することによりNiと組み合わせる典型元素の種類による金属間化合物の選択性の違いを明らかにする。 第二に、NiとTi、Zr、V、Cr、Mnなどの遷移元素との組み合わせから成る金属間化合物について同様の検討を行う。これらの遷移元素は酸素に対する高い親和性を持つため、空気中ではバルクとして金属間化合物を形成していても、表面は酸化されている。本研究の手法により酸素フリーな条件下で破断面を形成できれば、今まで観測することが困難であったNi-遷移元素による金属間化合物の酸化されていない(すなわち真の)触媒特性が明らかになるものと期待する。 第三に、新生表面が本当に触媒活性点を持つかどうかを検討する。具体的には粒子径が1~0.01 mmと大きく異なる金属間化合物を同じ反応条件で反応させ、転化率および選択率の変化を観察する。
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Causes of Carryover |
金属触媒を加えずにタングステンカーバイドボールのみを用いて、反応ガス共存下でミリングを行ったところ、条件によっては50%以上のアセチレン転化率が観察された。したがって本系において触媒の効果を明らかにするには、タングステンカーバイドボールのみではほとんど反応が進行しない条件を見出す必要が生じた。この条件探索に予定外の時間がかかり、金属間化合物を触媒とする実験を当該年度内に実施することが困難になった。そのため金属間化合物調製用の純金属の購入を次年度に先送りにした。次年度においては、第二金属を購入して金属間化合物を調製し、化合物のへき開面による触媒作用の解明を行う予定である。
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