2021 Fiscal Year Research-status Report
単原子磁石と磁気結合したトポロジカル近藤絶縁体のスピン偏極表面状態
Project/Area Number |
20K21119
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮町 俊生 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (10437361)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / トポロジカル絶縁体 / 近藤効果 / 磁性単一原子 |
Outline of Annual Research Achievements |
極低温領域で強い電子相関(近藤効果)によって金属-絶縁体転移を起こす近藤絶縁体SmB6は近年、トポロジカル近藤絶縁体(TKI)と理論予測され、新奇なトポロジカル物性の発現が期待されている。これまでに研究代表者はアルゴンスパッタリングと加熱処理による大面積で均一なSmB6(001)表面作製法を確立し、バンドギャップ中に現れる金属状態がトポロジカルな性質を強く反映した表面状態であることを走査トンネル顕微鏡(STM)測定により明らかにした(Sci. Rep 2017)。本研究ではさらにSmB6(001)表面上に磁性単一原子を作製し、SmB6-磁性単一原子間に働く磁気相互作用をSTMを用いて原子スケールで調べることにより、近藤効果がSmB6のトポロジカル表面状態の発現に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
本年度は、加熱温度の精密制御によりp(1×1)表面とc(2×2)再配列表面の2種類の表面構造を作製できるようになったSmB6(001)表面に極低温その場蒸着により磁性Co単一原子を作製し、SmB6-磁性単一原子間に働く磁気相互作用をSTM分光測定により明らかにすることを試みた。SmB6(001)表面上の磁性Co単一原子は、液体ヘリウム温度に冷却したクライオスタット内のSmB6単結晶に電子ビーム蒸着源を用いてCoを蒸着することにより作製できる(その場蒸着)。しかし、研究開始当初、その場蒸着後のSTM構造観察からSmB6(001)表面上に磁性Co単一原子を確認することができなかった。そこで、明らかになった問題の原因分析を行い、電子ビーム蒸着源の設置角度やSTM装置設計に問題があることがわかった。対応策として、電子ビーム蒸着源の設置角度を調整できるようにするとともに、STM装置の改良を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はSmB6(001)表面上に作製したCo単一原子のSTM測定を行い、SmB6-磁性単一原子間に働く磁気相互作用を調べることによってSmB6(001)表面に現れるトポロジカル表面状態の起源を強い電子相関(近藤効果)の観点から解明することであった。しかし、磁性単一原子作製のための「その場蒸着」の機構に問題があり、Co単一原子を確認することができなかった。問題解決のため、電子ビーム蒸着源周りやSTM装置の改良を行う等、研究計画を変更する必要が生じた。本年度後半に装置改良・整備が完了し、その場蒸着のテストとしてCu(001)表面に窒化銅単原子層を成長させ、その上にCo単一原子の作製を試みた。先行研究より、窒化銅単原子層上のCo単一原子の吸着サイトやスピン励起スペクトルは明らかになっている。STM原子分解能構造観察および分光測定の結果、先行研究同様の結果が得られ、Co単一原子が作製できていることを確認した。
その場蒸着機構の改良と並行してトポロジカル物質を中心とした関連物質の研究を進め、これらの研究成果については国内学会で発表を行い、さらに学術雑誌に論文発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はSmB6(001)表面上に磁性単一原子を作製するための「その場蒸着」の機構の問題が明らかとなり、問題解決のため電子ビーム蒸着源周りやSTM装置の改良を行う必要が生じた。今年度後半にSTMの装置を改良・整備し、その場蒸着によってCo単一原子を作製できることを確認しており、次年度はSmB6(001)表面上のCo単一原子のSTM観察を行う。SmB6(001)表面の近藤状態は、磁性単一原子近傍では磁性単一原子の磁気異方性との競合が起こり、弱まると考えられる。一方、磁性単一原子との距離が遠い領域では磁気相互作用は弱く、SmB6(001)表面は通常の強い近藤状態を示すと考えられる。このSmB6(001)表面の近藤状態の空間変調がトポロジカル表面状態に及ぼす影響をSTM分光測定により実空間原子分解能で明らかにする。また、試料作製条件の精密制御によりp(1×1)構造とc(2×2)構造を持ったSmB6(001)表面を選択的に作製できることを明らかにしていることから、SmB6(001)表面構造の違いがトポロジカル表面状態およびCo単一原子との磁気相互作用に及ぼす影響についても原子スケールで調べる。得られた研究成果は国内外の学会で発表を行うとともに、実験データの解析がまとまり次第、随時学術雑誌に発表していく。
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Causes of Carryover |
本年度中にSmB6(001)表面上に作製したCo単一原子のSTM測定を行い、SmB6-磁性単一原子間に働く磁気相互作用を調べることによってSmB6(001)表面に現れるトポロジカル表面状態の起源を強い電子相関(近藤効果)の観点から解明する予定であった。しかし、磁性単一原子作製のための「その場蒸着」の機構(電子ビーム蒸着源の設置角度およびSTM装置設計)に問題があり、Co単一原子を作製することができなかった。問題解決のため、電子ビーム蒸着源周りやSTM装置の改良を行う等、研究計画を変更する必要が生じた。また、新型コロナウイルス感染症の影響により研究活動が制限され、上記のSTM装置の改良・整備作業に遅延が生じたため、次年度使用額が生じた。
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[Journal Article] Electronic structure of 3°-twisted bilayer graphene on 4H-SiC(0001)2021
Author(s)
Takushi Iimori, Anton Visikovskiy, Hitoshi Imamura, Toshio Miyamachi, Miho Kitamura, Koji Horiba, Hiroshi Kumigashira, Kazuhiko Mase, Kan Nakatsuji, Satoru Tanaka, Fumio Komori
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Journal Title
Physical Review Materials
Volume: 5
Pages: L051001
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Spatial Control of Charge Doping in n-Type Topological Insulators2021
Author(s)
Kazuyuki Sakamoto, Hirotaka Ishikawa, Takashi Wake, Chie Ishimoto, Jun Fujii, Hendrik Bentmann, Minoru Ohtaka, Kenta Kuroda, Natsu Inoue, Takuma Hattori, Toshio Miyamachi, Fumio Komori, Isamu Yamamoto, Cheng Fan, Peter Kruger, Hiroshi Ota, Fumihiko Matsui, Friedrich Reinert, Jose Avila, Maria C. Asensio
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Journal Title
Nano Letters
Volume: 21
Pages: 4415~4422
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] 大面積数度ツイストグラフェンの電子状態2021
Author(s)
飯盛拓嗣, 今村均, 宮町俊生, 服部琢磨, 中辻寛, 北村未歩, 堀場弘司, 間瀬一彦, Visikovskiy Anton, 田中悟, 小森文夫
Organizer
日本物理学会 2021年秋季大会
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