2020 Fiscal Year Research-status Report
生体膜へのイオン配位状態の分子レベルでの理解:水中X線吸収分光
Project/Area Number |
20K21125
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
手老 龍吾 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40390679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長坂 将成 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 助教 (90455212)
望月 祐志 立教大学, 理学部, 教授 (00434209)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 脂質二重膜 / X線吸収分光法 / 放射光 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体膜の基本構造である脂質二重膜は、両親媒性の脂質分子が水中で形成する自己組織化構造であり、その物性や相転移・相分離は水溶液中のイオンによって強く影響される。流動状態にある水溶液中の脂質二重膜内におけるイオンの配位部位と結合定数を水中X線吸収分光(XAS)法によって実験的に決定し、第一原理計算に基づいて検証するのが本研究の目的である。 XAS計測は分子研放射光施設UVSOR BL-3Bで行った。代表的なリン脂質であるphosphatidylcholine (PC)の二重膜を水中XAS用セルの内壁に形成し、透過法によってO-K端XAS計測を行った。残留吸着ベシクルの除去、溶存酸素の除去、測定チャンバ内のガス組成など試料調製と測定のための条件を改善することで、PC二重膜2層からのO-K端XASスペクトルを十分に高いS/N比で再現性良く取得することができるようになった。Na+濃度の異なる緩衝液中でPC二重膜のXASスペクトルを測定し、PC内に存在する複数の異なる酸素原子に由来する成分が含まれていることを明らかにした。PC親水頭部のリン酸基部分を模した分子としてリン酸ジエチルを用いた内殻励起計算を行い、リン酸基由来のXASスペクトルとそのNa+の配位による変化を明らかにした。水溶液中でのPC二重膜のXASスペクトルとそのNa+濃度依存性を取得し、O-K端XASスペクトルに含まれる成分を帰属することに成功した。 まだ、フラグメント分子軌道(FMO)によって第一原理計算に基づいて取得した相互作用パラメーターを用いて粗視化シミュレーション(DPD)を行い、PC二重膜について従来法で求めたものと良好に一致する物理量が再現できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施計画に記述した実験課題について、上述の通り順調に研究成果を挙げることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
XAS計測の実験では、同じPC二重膜を用いて生体環境におけるNa+以外の主要なカチオン主であるK+, Ca2+を用いてPCへのイオン配位のイオン種依存性を調べる。また、二重膜中での分子配向についての情報を取得するために、二重膜平面に対するX線の入射角度を変えてXAS測定を行う。 XASスペクトルの理論計算による検証のために、PC二重膜をイオンが存在する水中でFMO-DPDによりシミュレートする。脂質に対するイオンと水分子の座標を取得し、その配置におけるX線スペクトルのシミュレーションを行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大により、発表を予定していた国際会議が延期されたため。また、大学の活動制限により学生の実験補助・データ整理も予定通りに実施出来なかったため、次年度に繰り越して実施する。
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