2020 Fiscal Year Research-status Report
control of chemical reactions by the potential modulation with vibrational polaritons
Project/Area Number |
20K21175
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
香月 浩之 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10390642)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 振動ポラリトン / 強結合状態 / 超高速分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
CaF2基板上に金薄膜をコートした窓材を利用して中赤外波長のキャビティを作成し、主に波長5μm周辺に振動モードが存在するK3Fe(CN)6, K4Fe(CN)6, DPPA(ジフェニルホスホニルアジド)などの試料を用いてFTIR透過スペクトルの測定を行った。吸収線幅とFabry-Perotモードの線幅、結合による分裂幅を比較して、実際に強結合状態が実現されていることを確認した。その際、サンプルによっては金薄膜の剥離などが生じるため、保護膜によるコーティングが有効であることを確認した。また、スペーサとしてレーザー加工によって成形されたカプトンフィルムを用いることで、既製品のスペーサから大幅にコストダウンすることに成功した。 次に振動ポラリトン状態を超高速分光で観測するため、フェムト秒再生増幅器の出力から差周波発生により、波長5μm周辺の中赤外レーザーパルスを生成する中赤外OPAを作成し、7mW程度の出力を確認した。これを光源としてポンププローブ光学系を構築し、non-cavity試料において過渡吸収スペクトルの測定に成功した。K3Fe(CN)6, K4Fe(CN)6, DPPAのいずれの試料でも、およそ10~20psの時間で過渡応答が減衰していることが確認された。次の段階として、キャビティ試料を用いてポンププローブ実験を行ってみたところ、ポンプ光の集光により局所的に加熱され気泡が生じ、金薄膜がダメージを受ける現象が確認された。原因はキャビテーションバブルの発生とそれに伴う衝撃波による影響であると考えられる。今後、この影響を軽減するためにフローセルによる試料の輸送、より接着力の高い成膜法の採用などを試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中赤外キャビティの作成とそれを用いたFTIR分光器による強結合状態の観測、フェムト秒中赤外ポンププローブ測定装置の立ち上げは順調に進み、どちらもすでに完了している。 現在の課題として、ポンプ光の集光による金薄膜のダメージがあげられる。この原因は、溶液との境界面でのキャビテーションバブルの発生とそれに伴う衝撃波であると考えており、その理由はフローセルの形状に問題があり、溶液が均等に流れるようになっておらず、泡がレーザー照射の位置に停滞していることなどが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ポンプ光の集光による金薄膜のダメージを回避するためにいくつかの改善手法を計画している。(1)フローセルの形状変更による液体スループットの向上、(2)金薄膜の成膜手法の変更により、より基板との結合力の強い薄膜を作成、(3) ビームの集光スポット径を大きくしてフルエンスを減少させる、などの方法をそれぞれ独立に試みる予定である。これらを組み合わせることで、中赤外キャビティ試料における振動ポラリトン状態の時間分解分光計測を実現する。 また、現在の光学系は実験室内に開放状態で組まれているため、水蒸気や二酸化炭素の影響を受ける波長領域での実験を行うことができない。より幅広い試料への応用を目指す観点から、差周波発生部分以降の光学系はチャンバー内に設置し、乾燥空気または窒素によるパージができるよう、改良する予定である。 金薄膜の反射により、十分なポンプ強度でポラリトンを生成できない場合には、金薄膜の代わりに誘電体多層膜によって波長5μm領域のみを閉じ込められるキャビティを作成し、誘導ラマン励起によって振動励起を起こす手法も計画中である。このためには振動モードがラマン遷移、双極子遷移の両方に活性があることが必要となるため、そのような分子を選定する。
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Causes of Carryover |
サンプル用キャビティの成膜手法として、比較的安価なイオンプレーティング法を用いた成膜を業者に依頼していたが、レーザー集光によって膜表面の剥がれが生じ、より高価なイオンスパッタリングなどの手法を用いる必要が生じた。このため、必要となる成膜費用が予定より高くなるため、その分の費用を捻出し2021年度予算と合わせて使用する予定である。
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