2021 Fiscal Year Research-status Report
微小液滴と超短パルスレーザーによる新規質量分析法および金属クラスター合成法の開発
Project/Area Number |
20K21177
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
堀尾 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40443022)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 質量分析 / 液滴 / 超短パルスレーザー / 金属ナノクラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究目的は,吐出量ピコリットルオーダーで発生可能な微小液滴とフェムト秒パルスレーザーを用いた新規ソフトイオン化質量分析法を開発することである。研究計画に則り,今年度前半は,前年度末に納入されたイオン引き出しチャンバーおよびリフレクトロン飛行時間型質量分析器の組立てを完了した。その後,ターボ分子ポンプとドライポンプによる真空排気を行い,両装置の到達真空度が質量分析に支障の無い10^-5 Pa以下であることを確認した。本質量分析器は,微小液滴にフェムト秒パルスを照射した際に発生するイオンを大気中から高真空に導入し,溶媒の加熱除去を行う。その後,イオンを高電圧パルスにより加速し,その飛行時間を測ることで,イオンの質量電荷比を同定するものである。高電圧パルス発生用の高速スイッチの納入が当初予定したよりも大幅に遅れたため,同質量分析器の性能評価を次年度に行う計画に変更した。 本研究では,金属イオンを含む微小液滴から,光還元法によって金属ナノクラスターを簡便に合成する新たな手法の開発も目的としている。そのためには,金属ナノクラスターの電子構造の実験的探究が不可欠である。そこで本研究では,金属クラスター負イオン用の光電子イメージング装置を新たに立ち上げた。光電子脱離用光源には,波長404 nm(光子エネルギー3.07 eV)のCWレーザーダイオードを用いることで,銀クラスター負イオンからの光電子放出分布を可視化することに成功した。本装置は,宇宙空間並みの極希薄試料に対しても,その光電子スペクトル,および光電子放出角度分布をわずか1分足らずで取得できる画期的な装置である。特に銀18量体負イオンからの光電子放出角度分布は,レーザー電場方向に著しい偏りがあることが分かり,同クラスター負イオンの最高被占有軌道がs型の電子軌道を持つことを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年7月30日の内定後から質量分析器の設計と製作を行い,令和3年度前半にその性能評価を終える計画であった。しかし,資材調達に想定外の時間を要したため,次年度で行う計画に変更した。以上より,やや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度前期:リフレクトロン飛行時間型質量分析器の質量分解能の評価を行う。そのために必要となるエレクトロスプレーイオン化源を自作する。数kVの高電圧を印加した注射針から試料溶液を正イオンモードで噴霧し,その飛行時間型質量スペクトルを測定する。プロトン付加体に帰属されるピークの半値全幅を見積もることで,本分析器の質量分解能(M/ΔM)を決定する。同時に負イオンモードでも測定を行い,正負両イオンの観測が可能であることを確認する。 令和4年度後期:既に調達済みのピエゾ素子型の液滴発生ノズルから発生した微小液滴にフェムト秒パルスを照射する。クーロン爆発で飛散した微小液滴の一部を導電性キャピラリーに導き,溶媒を加熱除去した後に,同質量分析器に導入する。飛行時間型質量スペクトルの測定から,本技術の原理実証を行う。その後,本技術の付加価値を探究する。フェムト秒パルスの多様なパラメータ(強度,パルス幅,波長,チャープ量,偏光など)を変化させ,目的イオンを高感度に観測するためのパラメータの最適化や,解離断片を用いた構造推定法の可能性について検討する。以上の計画と並行し,硝酸銀水溶液など,銀イオンを含むの微小液滴にフェムト秒レーザーを照射し,光還元法による銀ナノクラスターの生成に挑戦する。ここでも,フェムト秒パルスのパラメーターを変えながら,銀ナノクラスターの飛行時間型質量スペクトルを測ることで,その生成量やサイズ分布の制御を試みる。さらに,新たに立ち上げた光電子イメージング装置により,銀ナノクラスター負イオンの電子構造研究を推し進める。銀ナノクラスター負イオンのサイズを変えながら光電子放出角度分布を精密に測定し,その理論解析を行うことで,軌道角運動量の観点から同クラスター負イオンの電子構造を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
今年度調達予定物品の納入が大幅に遅れたことにより,研究計画を一部変更したため。未使用分は光学部品および真空部品などの消耗品の調達に充てる。
|
Research Products
(3 results)