2020 Fiscal Year Research-status Report
Physical chemistry on electroconductive liquid
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20K21181
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
小林 由佳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主幹研究員 (80334316)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 電子伝導性液体 / 物理ゲル / 有機ラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
水銀は液体状態で「電子伝導」する特別な物質である.この機構を一般化して物質開発に活かすことが出来れば,自在に形を変える液体伝導性材料を設計するための新しい指針となるはずである.申請者らがこれまでに合成した分子単独で凝集して結晶状態で高伝導性を発現する有機ラジカル分子群には,溶媒やイオン液体に溶解した「溶液」であっても電子伝導を実現する分子が存在する.本研究では、その代表的な系について伝導性液体試料の調整法および伝導性の評価を行い、また、伝導性発現のメカニズムについて検討する. 本年度は伝導性液体の調整法の検討を行った.複数の溶媒に有機ラジカル分子を溶解し、その変化を観察した.その結果、多くの溶媒にサンプルは不溶であるものの、いくつかの溶媒において数週間から数ヶ月の長時間を経た後に溶解した.その中に、粘性を有する物理ゲル状、スラリー状液体となる試料が存在することが分かった.これは、ラジカル分子の濃度にも依存しており、ある一定濃度よりも希薄な溶液はこれらの状態をとらないことが明らかとなっている.そして、完全に溶解したサンプルについて簡易的な電気伝導度測定を行ったところ、物理ゲル状、溶液状サンプルの双方に電子伝導性が発現していることが分かった.しかしながら、その抵抗値にはサンプルの状態に依って大きな差が存在することが明らかとなった.さらに、ここで得られた結果をより精密に評価するための測定用基板の設計と作製を行った.ここでは、シリコン基板の上にSiO2酸化膜をコーティングし、液体状試料を設置するための溝をエッチングにて施した.その基板に金配線し、4端子測定が可能な状態とした.この基板を用いて、室温条件で電気伝導度の測定を行い、多くの有用な知見を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は電子伝導性液体の調整法について詳細に検討し、再現性よく目的試料を得るための道筋をつけることにおおむね成功している.ここで得られる伝導性液体は全て電子伝導性であり、イオン性液体などで見られるイオン伝導ではないことが系統的に証明でき、確実に新しいタイプの伝導体を創製できたと言える.しかし、ここで問題となるは、この伝導性液体の調整に数ヶ月単位の長期間を要する点である.これは物質の性質に由来するものであるが、今後、材料としての使用を検討する際には、この点を克服する方法を開拓する必要がある.これは、電子伝導性液体中での分子の配向や電子状態などについて詳細に検討することにより突破口が開けるものと予想される.次年度に行う伝導性発現のメカニズムに関する解析と合わせて検討する予定である. また、伝導性液体の電気伝導度について、接触抵抗などを極力減らして4端子測定を行う基板の作製および方法論の確立に成功している.固体試料には劣るものの、一般の有機ラジカル半導体単結晶と同程度の伝導度が確認されており、液体としては驚異的に高いことが分かった.一方で、測定時間が長時間(数時間スケール)に及ぶと、有機溶媒の揮発が深刻化した.故に、液体状態の伝導性を評価するためには、密閉状態で測定を行う必要があるなどの措置を講じる必要があることが分かった.また、完全に乾固したxeroゲルは、有機ラジカル分子固体の金属性を再現することも分かった.これは、伝導性液体となることにより、化学反応は起きておらず、液体中で有機分子が効率よく分散した状態で電子伝導する状態を示唆しており、伝導メカニズムに関する有用な知見が得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、伝導性液体の定量的な伝導度測定を行うと共に、メカニズムに関して詳細に検討する.そのためには、サンプル調整を再度行う必要がある(数ヶ月を要する).濃度を系統的に変化させた新サンプルについて、前年度に作製した液体測定用4端子基板を用いて室温伝導度を評価する.もしも密閉する状態で測定可能となれば、ヘリウムクライオスタットへのサンプルプローブの導入が可能となり、溶媒の凝固点以上から室温までの限られた温度範囲ではあるが、抵抗値の温度依存性が測定できる.これにより、ホッピング伝導などの機構に関する知見が得られるものと期待される.また、更にメカニズムに関する知見を得るため、1)分子配列、2)分子スピン、3)光学特性に関する測定を行う.1)については、液体を乾固させることにより得られるxeroゲルのX線もしくは電子線回折像から、単結晶構造と比較して伝導性液体の分子配列を推定する.また、もし可能であれば、エリプソ分光法をゲル状態およびスラリー状液体について行い、分子配向に関する知見を得る.2)については、電子スピン共鳴法により常磁性スピンの性質(g値や線幅など)を液体状態で測定を行い、固体または単結晶と比較して、常磁性スピンが置かれた環境の差について考察する.3)については、ゲル状態およびスラリー状液体を石英基板に塗布して、紫外域から赤外領域までの広範な波長領域の透過率、反射率について測定を行い、バンドギャップの有無について検討を行う.そして、電気伝導度測定の結果などと併せて、総合的に電子伝導性液体の伝導機構について考察する.また、この予想される機構に基づいて、短期間で伝導性液体を得るための調整法の再検討を行う予定である.
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Causes of Carryover |
サンプル調整に予想を上回る長時間を要したため、新サンプルを調整するための必要を次年度に繰り越した.今年は、その予算を使用して新たなサンプル調整を行う予定である.
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