2020 Fiscal Year Research-status Report
シュレーディンガー・レベルの理論原子スペクトルと分子のExact波動関数の構築
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20K21182
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Research Institution | Quantum Chemistry Research Institute |
Principal Investigator |
中嶋 浩之 認定NPO法人量子化学研究協会, 研究所, 部門長 (80447911)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | シュレーディンガー方程式 / 自由完員関数理論 / 理論原子スペクトル / 原子論的化学概念 / Slater型3,4電子積分 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、シュレーディンガー方程式の正確な一般解法として提案された自由完員関数理論(Free Complement (FC) 理論)において、変分法(積分法)による解法を展開し、シュレーディンガーレベルの高精度な理論原子スペクトルの計算と、それを基底に用いて分子の高精度波動関数を構築することを目的としている。 変分法は、変分原理を満たす安定な高精度計算が可能というメリットがあるが、波動関数の構築において”積分可能”という強い制約が課せられる。この制約の中で一般原子・分子に応用するため、FC sij理論とFC sij-assisted rij理論が提案された。FC sij理論は、rij項の代わりに積分が容易なsij=rij^2を用いることで1,2電子積分のみで計算することを可能にするが、シュレーディンガー方程式の正確な絶対解への収束は遅い。一方、rij項を1次まで導入するFC sij-assisted rij理論では、計算負荷が大きな3,4電子積分が必要となるが、絶対解への収束を大きく改善する。FC sij理論は、化学反応や励起エネルギーなど相対解での実用研究に適している。FC sij-assisted rij理論は、近似理論では説明できない精細な物理量や量子スペクトルなど、絶対解で化学精度以上(< 1 kcal/mol, < 0.1 kcal/mol)を要する研究に有用である。 本研究では、その目的を達成するためにFC sij-assisted rij理論の開発を主体に行い、これを現実的な計算時間で原子・分子へ応用するために、計算律速な3,4電子積分や反対称化演算の効率的な計算法の開発や、波動関数の精度を損なわずにコンパクトに記述する方法などを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R2年度は、FC sij-assisted rij理論において、原子・分子の記述に適したSlater型関数に対する積分法の開発を進めた。特に、原子(1中心)の3,4電子積分の積分法とコーディングを発展させ、より一般的な原子に展開するためのプログラムの高速化を行った。また、非直交関数と露わな相関項を含む波動関数に対するハミルトニアン・重なり積分の行列要素の反対称化演算を高速化するextended Lowdin formulaを提案した。また、高精度波動関数から精度を損なわず自由度を選択しコンパクトな波動関数の記述を可能にする完員関数選択法を提案した。 この方法をC原子のsp3状態(分子の化学結合には最も重要な状態)の計算に適用すると、僅か129個の自由度でシュレーディンガー方程式の絶対解として1 kcal/mol以下を実現した。従来の量子化学の計算で膨大な基底関数で何十万もの自由度が必要な計算と比べると画期的である。また、B原子(基底状態)では、文献上従来のHylleraas-CI法では化学精度が得られていなかったが、本理論では少ない自由度でも化学精度を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き計算法とプログラムの改良を進め、より一般的な原子の様々な基底・励起状態の計算を行い、波動関数や物理量の情報も含めた理論原子スペクトルデータベースの構築を進める。また、別プロジェクトで同時に開発している積分フリーのLocal Schroedinger Equation (LSE) 法の結果とも比較することで、互いの計算手法や波動関数構築法を相乗的に発展させる。 次に、計算した高精度な原子波動関数を基底関数として用いて原子から分子を構築し、原子間に局所的な結合関数を追加し、分子を理論合成する計算方法を確立する。まず、化学結合の基本である種々の二原子分子の計算から始め、色々な化学的知識と組み合わせながら効率的かつ精密な分子波動関数の記述法を探求する。 また、高精度な波動関数が持つ物理的・化学的情報を抽出するため、1電子, 2電子密度行列やエネルギーの微分量を計算し、物理量・プロパティ(様々な電気的・磁気的諸量など)の計算・解析を行う。また、定量的な物理量だけでなく、波動関数を化学フォーミュラ理論に基づき解析し、理解に繋がる波動関数を構築する。この点は、シュレーディンガーレベルの解を化学研究へ有用に展開するために非常に重要であり、従来の非局在分子軌道法では成し得なかったことである。
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Research Products
(3 results)