2020 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属ジフルオロカルベン錯体の創製と有機フッ素化合物の触媒的合成への展開
Project/Area Number |
20K21186
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
市川 淳士 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70184611)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 有機化学 / フッ素 / カルベン / トリフルオロメチルアルケン / 触媒 / 金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、フッ素置換金属カルベン錯体を活用することで有機フッ素化合物の合成法確立を目指しており、(1) 各種金属ジフルオロカルベン錯体の安定化法と調製法の確立、(2) 各種金属ジフルオロカルベン錯体を活性種とする触媒的合成反応の開発 という二段階の目標のもとで、各種検討を行なっている。 令和2年度は、チオカルボニル基のトリフルオロエチリデン化反応を開発した。具体的には、種々のチオケトンに対し、触媒量の第四級アンモニウム塩およびメトキシド存在下、トリフルオロアセトアルデヒドまたは(トリフルオロメチル)ケトンのN-トシルヒドラゾンを作用させた。これにより、対応する生成物として多置換(トリフルオロメチル)アルケンを高い収率で得た(チオカルボニル基のトリフルオロエチリデン化)。ここでは、トリフルオロメチル基を有するN-トシルヒドラゾンから塩基の作用により、カルベン種であるトリフルオロエチリデン [CF3(H)C:] が発生している。トリフルオロエチリデンとチオカルボニル化合物の[2 + 1]付加環化により(トリフルオロメチル)チイラン中間体を与え、ここから脱硫が進行して生成物となる。 (トリフルオロメチル)アルケンは、有機フッ素化合物合成のための中間体としてその地位を確立しているが、その多置換体の合成は未開拓な領域であった。本手法により、アルケン上が三置換あるいは四置換の(トリフルオロメチル)アルケンを合成でき、多置換(トリフルオロメチル)アルケンの合成法を提供している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、遷移金属のフッ素置換カルベン錯体の調製と利用を目指すものである。これまで我々は、フッ素置換一炭素カルベンであるジフルオロメチリデンの金属錯体 [F2C=M] の利用には成功していたが、これ以外のカルベンについてはその発生法の欠如から、その利用法の開発が遅れていた。令和2年度は、フッ素置換二炭素カルベンであるトリフルオロエチリデンの発生に成功した。これはトリフルオロエチリデン錯体 [CF3(H)C=M] への道を拓く重要な知見であり、本研究課題は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に得られた成果をもとに、トリフルオロエチリデン錯体の発生と利用について検討を進める。また、トリフルオロエチリデン錯体とは別種の二炭素カルベン錯体として、ジフルオロビニリデン錯体 [F2C=C=M] がある。我々がこれまでノウハウを蓄積してきたα位に脱離基を有するジフルオロビニル金属種をカルベン源として採用し、ジフルオロビニリデン錯体の発生と利用について、検討を開始する。 このほか、1-ブロモ-1,1-ジフルオロ-2-アルキンをカルベン源として、三炭素カルベン錯体であるジフルオロアレニリデン錯体 [F2C=C=C=M] の調製と利用にも挑戦する。
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