2020 Fiscal Year Research-status Report
Synthesis of Metal-Nanoclusters of Iron Group Metals
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20K21207
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大木 靖弘 京都大学, 化学研究所, 教授 (10324394)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 鉄 / コバルト / ニッケル / ホウ素 / アミド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の出発原料として、かさ高いアミド基を持つ低配位鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)錯体を論文既報の方法に従って合成し、蒸留,昇華,あるいは結晶化により高純度の前駆体を得た。続いて、これら一連の低配位錯体とホウ素試薬(ピナコールボラン)の反応を検討した結果、鉄錯体やコバルト錯体は-40度C~室温の間で速やかに反応する様子が見られた一方で、ニッケル錯体Ni{N(SiMe3)(C6H3-2,6-iPr2)]2を用いる類似反応では、室温~40度Cの温度範囲でニッケル錯体が未反応のまま残ることが判明した。用いた芳香族置換基(2,6-ジイソプロピルフェニル基)が金属周りを覆い、ニッケルへのホウ素試薬の接近を阻害したことが原因と考えられる。ピナコールボランより小さいホウ素試薬として、カテコールボランやBH3-THFを利用し、またホウ素試薬より反応性が高いと期待されるジイソブチルアルミニウムヒドリド(DIBAL)の利用も検討した。うち、BH3-THFのみ、上記ニッケル錯体と反応する様子が見られたため、引き続き検討を進める。 本研究で取り扱う金属元素の種類にMoを加え、かさ高いCp配位子を持つ半サンドイッチ型モリブデン錯体(C5tBu3H2)MoCl4と還元剤KC8、H2との反応から、二核オクタヒドリド錯体(C5tBu3H2)2Mo2H8を合成することに成功した。このMo2H8錯体は、ヒドリド配位子の一部をH2として放出してベンゼンと反応し、ベンゼン架橋二核錯体(C5tBu3H2)2Mo2H2(C6H6)を与えることが分かった。また、二つのモリブデンを架橋するベンゼンには回転挙動ないし振り子挙動が見られ、溶液中のNMRスペクトルではベンゼン配位子由来のシグナルは一種類に観測された。また、この動的挙動の活性化障壁が2kcal/mol程度であることを、DFT計算により求めた。これらの結果を論文としてまとめ、Chem.Commun.誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コバルト(II)アミド錯体、N-へテロ環カルベン配位子、およびホウ素試薬の反応から、新規金属クラスターが生成することを見出した。現在、多種多様なN-へテロ環カルベン配位子が現在知られ、一部は市販されていることから、この一歩がもたらす波及効果は大きく、新しいカテゴリーの金属クラスター化合物群を創製する足掛かりになると期待される。 また、水素原子と金属間結合だけで骨格形成したクラスターを合成する手法の一つとして、有機金属クロリド錯体とKC8、H2の反応を開発した。関連反応は後周期遷移金属元素を用いて検討されていたが、従来Moに対しては適用されていなかった。従って、本研究では新たな合成ルートを開拓したことになる。新合成ルートを応用することで、新しい化合物群を合成できると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
かさ高いアミド基を持つ低配位鉄(II)およびコバルト(II)錯体を前駆体とする金属クラスター合成反応では、よりかさ高いホスフィン類(PR3)ならびにN-へテロ環カルベンを補助配位子として用いる反応を中心に検討を進める。また、金属中心を立体的に保護し過ぎて反応性の低下を招いたニッケル(II)錯体については、鉄やコバルトで実績がある-N(SiMe3)2配位子を導入したニッケル(I)四量体の合成と利用を検討する。また、反応におけるガス雰囲気の影響を確認するため、窒素ガスを充填したグローブボックスと、アルゴンガスを充填したグローブボックスで同じ実験を実施し、比較する。一部の反応では、Co-N2-Co部位を持つクラスターが得られる様子を見出しており、N2を単なる不活性ガスと見なせない場合もあることを、見出しつつある。
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Causes of Carryover |
2020年度の途中で、研究代表者が名古屋大学から京都大学へ異動した。新研究室の立ち上げと移設のために3ヶ月ほど要し、その期間は実験を停止した。研究自体は前倒しで進めていたため、進捗には問題ない。また、繰り越した経費を活用して、2021年度の実験研究を加速させる。特に、2020年度の探索段階では自前で合成していた原料(配位子)のうち、市販品は自前合成から購入へ切り替えることで、より重要な先端実験に注力できる。
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Research Products
(3 results)