2020 Fiscal Year Research-status Report
多核金属錯体の内部空間を利用した水素イオンの精密同位体認識
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20K21209
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
正岡 重行 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20404048)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 錯体化学 / 多核金属錯体 / 水素イオン / 分子認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素には3種の同位体が存在する。これらの同位体を効率的に分離する手法の開拓は、基礎から応用まで多岐にわたる研究領域に波及する極めて重要な課題である。申請者はこれまでに、多核金属錯体の電子移動能並びに触媒能に関する研究を行ってきた。その中で、w種類のならびに有機架橋配位子からなる異種金属5核錯体が、その骨格中に存在する空間に水素イオン(H+)を捕捉可能であることを見出した。更に、捕捉したH+は電気化学的刺激により自在に放出可能であった。この萌芽的知見を礎に、本研究では、多核金属錯体を利用した水素イオンの同位体認識を目標とした研究を展開することとした。具体的な戦略としては、ホスト骨格となる多核金属錯体内の小空間のサイズ・構造を緻密に制御し、各同位体に適した認識場を構築することを目標とした。また、同位体イオンを捕捉した金属錯体ホストの電気化学的刺激応答性の調査についても実施することとした。 本年度の研究においては、Hbpp(3,5-bis(pyridyl)pyrazole)の誘導体と2種類の金属イオンとにより構成される包摂空間を有した異種金属5核錯体の水素イオン包摂能に関して調査を行った。その結果、ルテニウムと鉄を金属イオンとして有する異種金属5核錯体において、重水素イオンと比較して水素イオンがより選択的にその構造内に取り込まれることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、Hbpp(3,5-bis(pyridyl)pyrazole)とルテニウムならびに鉄イオンから構成される異種金属5核錯体の物性調査を行った。具体的には、水素イオン源としてトリフルオロ酢酸、重水素イオン源としてトリフルオロ酢酸-dを用い、金属錯体中へのイオン取り込み能を赤外吸収スペクトル測定により評価した。その結果、重水素イオンと比較して水素イオンが金属錯体骨格中により優先的に包摂されることが明らかになった。本成果は、異種金属5核錯体の同位体認識能を示す有用なものである。したがって研究はおおむね順調に進捗していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得られた成果を礎に、次年度以降は異種金属5核錯体中に包摂された水素イオンの能動的放出挙動について調査する予定である。より具体的には、対象とする異種金属5核錯体が良好な酸化還元特性・光吸収能を有することに着目し、電気化学或いは光化学的刺激を駆動力とする水素イオンの放出について検討する。更に、構成要素である配位子ならびに金属イオンを系統的に変化させ、同位体認識能をより向上させる試みについても実施する予定である。これらの過程を通じ、最終的には水素の同位体を効率的に分離する革新的手法の開拓へとつなげる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延に伴い、2020年度前期は研究活動が制限されたため、この期間に予定していた実験の延期を余儀なくされた。そのため、これらの実験の経費として計上していた経費を次年度使用額として使用することとした。また、参加を予定していた国内・国際学会も延期または中止が決まったために旅費として計上した予算に余剰が生じた。これらの助成金は、次年度以降の実験にかかる物品・消耗品費、ならびに学会への参加費・旅費等として有効に活用する予定である。
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