2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K21211
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
楊井 伸浩 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90649740)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 光物性 / 金属錯体骨格 / 励起三重項 / スピン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では分子が光励起されることで生成する励起三重項が室温において大きな電子スピン偏極状態を取ることに着目し、そのスピン偏極状態を用いた機能開拓を目標としている。色素分子の配向や配列を制御して集積することで、励起状態におけるスピンダイナミクスを制御する。スピン偏極した励起三重項はこれまでの研究では材料などの評価手段でしかなかったが、本研究においてスピン偏極した励起三重項が新しい機能創出に有用であることを実証することに挑戦する。 本年度は金属錯体骨格中において色素分子の配列を制御することを試みた。光励起後に系間交差することでスピン偏極した励起三重項を形成しうる色素骨格をベースとして、金属イオンと配位結合を形成しうる部位を導入した色素配位子を新規に合成した。この色素配位子と反磁性の金属イオンを組み合わせて結晶性の金属錯体骨格を合成した。得られた金属錯体骨格の単結晶X線構造解析を行ったところ、結晶中で色素分子の配向が厳密に制御されていることが明らかとなった。得られた金属錯体結晶の時間分解電子スピン共鳴(ESR)測定を行ったところ、スピン偏極した励起三重項の観測に成功した。配位子だけの固体からは同様のESRシグナルが観測されなかったことから、金属錯体骨格中において色素部位の配向を精密に制御したことにより観測が可能となったことが示唆された。更に、励起三重項からラジカルへの偏極移行も観測することが出来、高度に偏極したラジカルを光励起により生成する新たな方法論となり得ることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画にあったように、スピン偏極した励起三重項を生成しうる色素部位を有した配位子とその配位子を用いた金属錯体骨格の合成に成功した。また、金属錯体骨格の結晶中での色素部位の配向制御に基づき、実際に偏極した三重項スピンの観測にも成功した。更には三重項からラジカルへの偏極移行を起こすことで、光励起により偏極したラジカルを生成しうるという新たな現象も発見した。以上より、当初の計画が順調に進捗していることに加え、当初は想定していなかった機能発現に結び付いていることから、当初の計画以上に研究が進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
異なる配位子や金属イオンの組み合わせにより、色素の配列構造を変化させる。時間分解ESR測定によりそれぞれの集合構造中におけるスピンダイナミクスを明らかにし、三重項のスピン偏極寿命をより長寿命化させることに取り組み、また長寿命な三重項スピンを発現するための設計指針を明らかにする。更に偏極した励起三重項を活用した新たな光・スピン機能の発現に繋げていく。
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