2020 Fiscal Year Research-status Report
溶液プロセスを用いたエピタキシーによるオキシハライド半導体ベース太陽電池の開発
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20K21232
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岡 大地 東北大学, 理学研究科, 助教 (20756514)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | エピタキシー / オキシハライド / 半導体 / 太陽電池 / ミストCVD / 複合アニオン |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度7月までに、本研究で太陽電池の光吸収層としての活用を目指すビスマスオキシハライドの初のエピタキシャル薄膜合成を達成し、Chemical Communications誌で成果発表した。本年度の研究では本研究成果の再現および改良に取り組んだ。上記論文中のプロセスにおいては従来型のホットウォール式ミスト化学気相成長装置によって薄膜合成を行っていたが、膜厚が10 nmから200 nm程度にとどまっており、光吸収には不十分であった。そこで装置の改良を試みた。具体的には、ファインチャネル式のミスト化学気相成長装置を構築し、上記研究と同様の前駆体から薄膜合成を行った。結果として、μmオーダーの膜厚の薄膜合成が可能であることを実証した。装置内の温度の均一性を向上させるためにさらに改良を行い、動作を確認した。 また、オキシハライドと同様に層状構造を持ち、かつ、可視光領域において高い吸収係数を示すビスマスオキシサルファイド薄膜の合成にも取り組んだ。この際、カチオンであるビスマスとアニオンである硫黄を同時かつ独立に基板上に供給するためにミスト発生装置を2つ並列に接続する構成のミスト化学気相成長装置を作製し、薄膜を合成した。結果、ビスマスと硫黄を含む化合物薄膜の合成が可能であることを実証した。他にも準安定酸化物である酸化第一銅や窒化銅といった太陽電池応用が期待される狭ギャップ半導体の合成にも適用可能であることが分かったため、今後、物質探索の幅を拡大して研究を遂行する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ビスマスオキシハライドの合成条件最適化を完了し、結晶性や光学特性の評価を行った。合成装置の改良に伴う動作確認実験の過程で、ミスト化学気相成長法が酸化物やオキシハライドだけでなく、硫化物や窒化物のエピタキシャル合成にも適用できることを見出した。これらの材料も可視光に強い吸収を示す半導体であるため、オキシハライドと同様に太陽電池の光吸収層に活用できると期待される。これらの材料については更なる条件最適化および基礎特性評価の必要がある。 現在までにミスト化学気相成長装置および光電気化学測定装置といった研究の遂行に必要な装置の準備が概ね整った。また、光入射側に用いる透明なイットリア安定化ジルコニア単結晶基板上に、パルスレーザー堆積法を用いて透明電極スズドープ酸化インジウムおよび電子輸送相であるチタン酸ストロンチウムのエピタキシャル薄膜を合成するための条件を最適化した。また、ホール輸送相であるヨウ化銅の平坦な薄膜をスピンコート法によって合成する条件も見出した。以上から、本格的にエピタキシャル太陽電池の作製と評価に取り組める段階に到達したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ビスマスオキシハライドおよび他の候補材料のエピタキシャル薄膜を酸化物単結晶基板上に合成し、結晶構造の観察、電気特性、光学特性といった基礎特性の評価を継続して進める。いずれも半導体材料であるため、電気特性の評価にはトランジスタ構造によるキャリアドーピングを検討する。この際、光照射下での測定により太陽電池中で発生するフォトキャリアの挙動も評価する。また、下部電極との界面での電気伝導性を評価するために、積層膜を合成し、電気化学測定を行う。さらに、電子状態の評価には光電子分光法を活用する。 単層膜、積層膜を用いた基礎特性評価と並行してエピタキシャル太陽電池の作製と評価に取り組む。材料間の比較に加え、薄膜の結晶構造の異方性が変換効率に与える影響を評価する。また、無機材料の特徴である安定性も評価し、従来材料との比較を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍に伴い当該研究の開始が7月まで遅延したが、それ以前の準備期間において、ミスト化学気相成長装置や光電気化学測定装置の一部を自作して賄ったため、当初の計画よりも費用を抑えることができた。くわえて、研究期間の短縮により消耗品の量も減少した。一方、当初計画よりも材料探索の幅が拡大したため、次年度にはエピタキシャル薄膜および太陽電池の作製・評価に当たり、多くの消耗品費や施設利用費が見込まれる。また、本年度に滞っていた研究発表に係る諸費用にも充当する。
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