2021 Fiscal Year Research-status Report
がん関連タンパク質の働きを同時に制御するハイブリッド抗体酵素の開発
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20K21255
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
一二三 恵美 大分大学, 研究マネジメント機構, 教授 (90254606)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | PD-1 / PD-L1 / 免疫チェックポイント / 抗体酵素 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内では、がん化した異常細胞の攻撃役としてT細胞が用意されており、このT細胞を活性状態で維持すれば、がんの種類とは無関係にがん細胞を殺傷することが出来る。しかしながら、がん細胞の中には攻撃を回避するためのツールとしてPD-L1を発現しているものがある。T細胞上のPD-1が、がん細胞上のPD-L1により不活性化されると病態は悪化する。そこで、本研究では、高機能性分子としてPD-1とPD-L1の双方に作用するハイブリッド型抗体酵素の作製を進めている。今年度の実施内容は以下の通りである。 (1)PD-L1に対するスーパー抗体酵素の作製:本課題では、PD-L1に対するスーパー抗体酵素の作製を進める計画で、一二三研究室所有の抗体酵素バンクに対するスクリーニング用抗原ペプチドの準備から開始した。初年度に基質として用いるPD-L1ペプチドの合成とFRET修飾を計画したが、合成収量が上がらないという問題点が生じた。そこで合成方法を変更することによりこの問題点を解決した。これにより、PD-1との相互作用に関与する2種類のPD-L1ペプチドを合成、FRET修飾した(No1, No2)。これらを用いて一二三研所有の抗体酵素バンクに対するScreeningを実施したところ、No1に対して高い分解活性を示すクローンは見出せなかった。一方、No2については、高い活性でこれを分解する複数のクローンを見出した。 (2)PD-1に対するスーパー抗体酵素H34のキャラクタリゼーション:Pro95の挿入はPD-1分解活性がほとんど消失する。一方、Arg95は酵素活性だけでなく、抗原認識サイトの主要な役割を担うことが明らかとなった。加えて、Arg95と共に、 活性サイトを形成しているアミノ酸残基を見出し、H34はserine protease機構とは異なる触媒メカニズムで抗原を分解していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本計画は、PD-1およびPD-L1に対するスーパー抗体酵素の作製を中心に実験を進め、その結果に基づいて、両標的分子(PD-1およびPD-L1)の機能を同時に消失させるハイブリッド型抗体酵素の作製を目的とする。初年度(令和2年度)はスクリーニング用の基質となるペプチド配列を決定し、その合成とFRET修飾を依頼したところ、合成収量が低いことに加えて新型コロナの影響で、輸送にも想定外の時間を要した。このため、初年度は入手が年度末近くになった。 2年度(令和3年度)は、抗原ペプチドの合成収量を改善するとともに、PD-L1がPD-1と相互作用する配列を数カ所特定し、特に興味のある2カ所を選び出した。この配列に従って、FRET-PDL1(No1)とFRET-PDL1(No2)の2種類のFRET基質の合成を行った。これに加えて、PD-1に対するスーパー抗体酵素のH34について点突然変異導入法(Point-mutagenesis)を用いて、酵素活性やPD-1分解のメカニズム解明のための実験を行った。その結果、前者の2種類のFRET-PDL1を用いたscreening試験では、PD-L1を分解できる数種類の抗体酵素を見出すことが出来た。また、後者のH34クローンのPoint-mutagenesisではserine protease mechanismとは異なる新たなメカニズムでPD-1の分解反応が進行していることを見出した。 2年度(令和3年度)は、こうした興味ある知見をいくつか得ることが出来たことから、(1)当初の計画以上に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度(計画次年度)までに、当初予定したPD-1を分解する抗体酵素、および、PD-L1を分解する抗体酵素の作製が順調に行えた。しかもPD-1に対するに抗体酵素H34クローンについては触媒活性サイトの解明まで行うことが出来た。そこで最終年度(R4年度)では計画通り、PD-1を分解する抗体酵素とPD-L1を分解する抗体酵素の両者の可変領域を遺伝子工学的にLinkerで繋いで、機能の異なる2種類の抗体酵素を繋げたハイブリッド型抗体酵素の合成に取りかかる。合成は複雑では無いが、本実験で困難が予想されるのは取得量である。これ解決策として、ハイブリッド型抗体酵素遺伝子の前後に可溶性画分に出やすい特別の配列を導入するとか、用いる大腸菌(BL21(DE3)pLysS)の培養条件を変えることで取得量の向上を試みる。 一方で、2種類の標的分子、FRET-PD1とFRET-PDL1を同時に反応させるので、2種類の基質に工夫が必要である。これまで使用してきたFRET(MCA/DNP)基質とは異なるFRET(例えば基質EDANS/DABCYL等)の合成を試みて、例えば、FRET-PD1には(MCA/DNP)で、また、FRET-PDL1には(EDANS/DABCYL)でFRET化を試みたい。この合成を行うことと、それらを用いた標的分子の同時分解反応の性能を詳細に検討することも最終年度の課題である。加えて、がん細胞系へのハイブリッド抗体酵素の性能調査も進める。
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Causes of Carryover |
一部計画を変更して進めたため、遺伝子組み換え関連の依頼分析件数が予定より下回った。また、11月頃にFRET-peptideの追加合成を計画したが、コロナ禍での納期遅延と、本学の会計締め切りの関係で困難となり、次年度に購入することにした。なお、これらの合成ペプチドを用いる21年度の計画については、初回購入分でギリギリ終えることが出来ている。最終年度は、これらFRET-peptideの追加合成を早々に行う。 旅費については、学会が全てオンラインになった関係で不要となった。 また、コロナ禍で諸々の価格が高くなるなか、最終年度はPD-1,PD-L1タンパクなどの高額な試薬が必要になることから、これらの試薬を十分量購入出来るように、次年度に備えて予算の使用を抑えた。
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Research Products
(2 results)