2020 Fiscal Year Research-status Report
感染症サーベイランスのためのインフルエンザウイルス新規検出法の創出
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20K21257
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 智典 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00162454)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / 糖鎖ライブラリー / 糖鎖プライマー / 凝集アッセイ / 糖鎖提示微粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
インフルエンザなどの感染症におけるサーベイランスは、世界的大流行の発生や拡大を食い止めるための重要な対策である。臨床検体からのウイルス分離時には、赤血球凝集アッセイ法によるインフルエンザウイルス(IFV)の検出が行われている。ところが近年、赤血球を凝集しないIFVが出現しており、サーベイランスでの問題となっている。本研究では、感染症サーベイランスにおけるIFVの新たな検出手法を創出するために、IFVが認識する糖鎖ライブラリーとそれを修飾した微粒子の開発を実施している。 動物細胞に発現している糖鎖は、ガングリオ系列、ネオラクト系、ムチン型、グリコサミノグリカン型など多様であり、いずれもIFVの受容体糖鎖となることが知られている。本研究では、IFV認識性の糖鎖ライブラリーを独自の糖鎖プライマー法により作製した。本研究代表者が開発した糖鎖プライマーを細胞培養液に二日間投与し、細胞が合成した糖鎖ライブラリーの組成を質量分析装置(LC-MS)を用いて解析した。IFV感受性細胞としてMDCK細胞など3種類の細胞で合成される糖鎖ライブラリーの組成解析を行い、コロナウイルス や C型肝炎ウイルス感受性細胞との比較解析を行い、デンドログラムやヒートマップを作成した。その結果、IFV感受性細胞は他の細胞群と明確に分離されていた。 得られた糖鎖ライブリーの中から、MDCK細胞にアジド化糖鎖プライマーLac-C12N3により得られた糖鎖ライブラリーをポリスチレン粒子にクリック反応で固定化した。この際に、糖鎖濃度、クリック反応の条件、および粒子サイズなどの検討を行った。得られた糖鎖提示微粒子とH1亜型およびH3亜型のヘマグルチニンを相互作用することで、凝集アッセイ法により目視で検出することが可能であった。微粒子の作製条件を最適化することで、検出に要する時間の短縮と高感度化を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
糖鎖ライブラリーの作製においては、計画書に示した主要なインフルエンザ感受性細胞を用いた糖鎖解析をほぼ終えている。現在、残りの細胞での解析を進めており、LC-MSでのスクリーニングを実施し、比較解析を行うための定量的解析を行うことで、多糖なIFVの亜型の選択的な検出に有用な糖鎖ライブラリーの特定が完了する。 糖鎖修飾微粒子の作製では、迅速で高感度な凝集アッセイ法の開発を中心に実施した。計画書に示した粒子サイズや固定化条件に関する検討を実施して、凝集アッセイでの検出に要する時間や検出感度の改善に成功している。 以上の様な進行状況を考えて、計画書の内容に沿った研究が実施できていることから順調に進んでいると判断できる。 これに加えて、想定以上に進んだ成果は、糖鎖ライブラリーの構築の過程で得られた。それは、インフルエンザ感受性細胞に発現している糖鎖の特殊性である。ウイルスの研究分野では、インフルエンザ感受性細胞としてMDCK細胞など複数の細胞が用いられている。それらの細胞に発現するシアル化糖鎖がIFVの認識に関与することが知られていた。しかしながら、他の細胞にもシアル化糖鎖は多く発現しており、インフルエンザ感受性細胞での発現糖鎖の特殊性に関しては明確にされてこなかった。本研究では、コロナウイルスやC型肝炎ウイルスに感染性を示す細胞を用いて糖鎖プライマー法で得られた結果と比較解析を行うことで、インフルエンザ感受性細胞は明確に分類できることが示された。今後、その特殊性を追求することで、IFVの高感度で亜型選択的な検出のための糖鎖ライブラリーの構築が可能になると考えている。この点において、当初の想定にはない新たな成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
糖鎖ライブラリーの構築においては、計画書に記載している様に、赤血球を凝集しないIFV株およびパンデミックを引き起こすことが懸念されるトリIFV株に親和性を有する細胞を用いて糖鎖ライブラリーを作製する。そのために、複数のIFV感受性細胞を用いて糖鎖プライマー法での糖鎖解析を実施してきた。今後は、1年目の成果をベースにして発展的な研究を実施する。具体的には、用いる細胞でのIFV感染性を定量的に評価し、各細胞での発現糖鎖とIFV感染性との相関解析を実施する。これにより、特にパンデミックを引き起こすことが懸念されるトリIFV株などとの親和性に優れた細胞株を特定して、その細胞株を用いて糖鎖ライブラリーの構築を目指す。 次に、糖鎖ライブラリーを提示した微粒子を作製してIFVとの凝集アッセイによる検出を実施する。IFV株としてはA型(H1, H3, H5, H7, H9亜型)やB型を用いる。これらのIFV株は研究協力者から既に入手しており、凝集アッセイに必要なウイルス数を増幅した。今後は、これらのIFV株を用いた凝集アッセイを行う。特に、亜型特異的な検出の可能性について検討する。これを達成できれば、当初想定した目標値を超える成果が得られることになる。 SARS-CoV-2でのパンデミックにより、ウイルスの検出手法は世界的に注目されている。PCR法が広く使われる様になってきているが、この方法では遺伝子断片があれば検出されるので、生きたウイルスを検出してはいない。新型ウイルスの発生を監視するサーベイランスの重要性は益々高くなっている。新型IFVの発生に対するサーベイランスでは赤血球凝集アッセイの必要性は継続して存在している。スクリーニングをすり抜けて新型ウイルスを見逃すことのない感染症サーベイランスに活用できる糖鎖修飾微粒子の開発を進めていく。
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