2020 Fiscal Year Research-status Report
食の記憶エングラムネットワークの同定と介入操作によるその機能的役割の解明
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20K21265
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 食記憶 / 記憶エングラム / 食行動 / 認知制御 / 記憶固定化 / 脳領野 / マウス / 食物価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題ではマウス食記憶モデルと食物価値変容モデルを用いて、食物を記憶するエングラム細胞・回路を網羅的に同定し、光遺伝学を用いて記憶エングラムを介入操作することで、食記憶に基づき食物価値を決定し変容させる機構を解明することを目的とした。今年度は、食物価値変容モデルの確立と、このモデルにおける記憶エングラムの同定を進めた。甘味(スクロース水溶液)に対する反応を指標にして、食物新規性恐怖モデルの確立を試みた。マウスにミールフィーディングの習慣付けを施し(飲み水の場合には1日一度の飲水)、新奇性恐怖が観察される食品を検索した結果、チーズやクッキーなどを与えた場合には初日に比較して2日目に顕著に摂食量が増加することを見出した。従って、初回提示ではこれらの食品を警戒するものの、二回目の提示以降、食品への嗜好性が増加する食物新奇性恐怖が観察されること、また、この課題が食物価値の変容モデルとなり得ることが明らかとなった。そこで、この新奇性恐怖課題を用いて、食記憶エングラムの同定を試みることとした。また、味覚嫌悪条件づけ課題を応用した新規食物価値変容モデル課題の開発にも取り組んだ。 上述の食物新規性恐怖モデルを用いて、食品摂食後に活性化される脳領域の同定を進めた。具体的には、初回及び二回目の食品提示後に活性化される脳領野を初期応答遺伝子c-fosの発現を指標として免疫組織染色により解析を行った。c-fos発現の解析から、スクロース水溶液摂取に比較して、マウスが嗜好性を示す食品摂取により、脳領野が高く反応することが示され、単一の味覚物質よりも、嗜好性の高い物質がより脳の活性化を導くことが示された。さらに、通常食摂食に比較すると有意に多いc-fos発現細胞が観察される脳領域が多く観察され、現在、c-fos発現細胞数を指標にして脳領域間の機能的結合性の評価を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍の影響があり、研究時間の制約が生じたものの、ほぼ予定通りに研究は進展した。まず、スクロース水溶液のような単一の甘味物質に比較して、強い嗜好性を示すチーズやクッキーなどの食品が、様々な脳領域に高いc-fos発現を誘導することが明らかとなり、新規食品摂取がマウスに対して強いインパクトをもたらすことが明らかとなった。また、これらの食品が、初回提示よりも二回目の摂取時において、顕著な摂食量の増加を示すことが明らかとなった。そこで、安定な再現性を示す食物新規性恐怖モデルを確立することができ、食物価値変容機構を解析することが可能となった。また、このような顕著な新規性恐怖を示す食品が複数観察され、食物の新規性識別機構を解析することも可能となった。さらに、食物摂食後に活性化される脳領域の同定が進み、嗜好性を示す食品の摂取によりc-fos発現細胞が有意に増加する脳領域が多く観察され、食記憶エングラム同定に近づいた。以上の点から、順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初期応答遺伝子c-fosを指標にして脳内の食記憶エングラムを網羅的が進んでいる。この解析を進めて、食物摂取に反応してc-fos発現が誘導される細胞を網羅的に同定し、c-fos発現細胞数の相関性から領野間機能的結合を評価するin silico解析により食行動に対する各脳領域の役割を予測する。また、c-fosタグシステム及びCatFISH法を用いて食物の違い等に反応する細胞を同定する。特に、c-fosタグシステムを用いて、また、レポータータンパク質としてヒストンH2BにGFPが融合されたH2B-GFPを用いて、食物の初回提示に反応するニューロンをH2B-GFPでラベルし、2度目の提示により活性化されるニューロンにおける内因性のc-fosを検出することで、H2B-GFPと内因性c-fosの二重陽性細胞が多く観察される脳領域を食記憶エングラム候補として同定する。さらに、c-fosタグシステムを用いて食記憶エングラムをチャネルロドプシンあるいはアーキロドプシンなどの光応答性チャネルでラベルし、食記憶エングラムの活性化または不活性が食行動に及ぼす影響を解析し、c-fos発現細胞が食記憶エングラムであることを証明する。また、味覚嫌悪条件づけ課題を応用した新規食物価値変容モデル課題の開発も進んでおり、この課題の妥当性を解析し、再現性の高い安定な行動解析の開発を試みる。さらに、初年度は新奇性恐怖を示す食品の同定に成功したが、初回と二回目以降の提示において、新奇性恐怖とは異なる摂取形態を示す食品の同定も進め、これらの食物の価値変容機構の解析にも挑戦する。以上の食物価値決定・変容モデルを用いて、食記憶エングラムの光操作により食物価値が人為的に変容し得ることを実証し、食物価値の決定と変容機構を解明する。
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Research Products
(37 results)