2020 Fiscal Year Research-status Report
嫌気的呼吸能の付与による、余剰還元力を活用した微生物物質生産系の開拓
Project/Area Number |
20K21287
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
中澤 昌美 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (90343417)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柏山 祐一郎 福井工業大学, 環境情報学部, 教授 (00611782)
坂元 君年 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (50361465)
藤原 崇之 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (10595151)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 低酸化還元電位型キノン / 余剰還元力 / 物質生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生物に広く存在するユビキノンに比べて低い酸化還元電位を有するキノン化合物(以下「低酸化還元電位型キノン」と記載)を生物に合成させることで、嫌気下で生じる余剰還元力を物質生産に活用することに挑戦している。 1年目である2020年度の成果として、原核生物モデルの大腸菌、光合成真核生物モデルのCyanidioschyzon melorae(シゾン)を用い、遺伝子改変によりこれらの生物が本来合成しない低酸化還元電位型キノンを細胞内の主要キノンとして合成させることに成功した。低酸化還元電位型キノンが細胞内のキノンの90%を超える株も獲得できた。この際、細胞の好気状態での生育や有機酸の合成量にはほとんど影響が見られなかった。 次に、ユビキノンのみを合成する大腸菌変異株ΔmenAをバックグラウンドとして、低酸化還元電位型キノンを合成させた。得られた細胞を低酸素処理し、一般的に還元的代謝が律速となっていると考えられているコハク酸の培地中蓄積量を調べた。その結果、ベクターコントロールと比較してコハク酸量が約1.8倍に増加していた。 シゾンの系でも同様に、細胞および培養上清の総有機酸の解析を行った。独立栄養条件で生育させたシゾンに含まれる有機酸の含量は低く、これまで低酸化還元電位型キノンの合成による有意な代謝変化は観察できていない。 本研究の全体構想では、真核生物モデルとして出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにおける低酸化還元電位型キノン合成も目指している。本年度での検討では、十分なタンパク質発現が得られなかった。現在宿主を分裂酵母Schizosaccharomyces pombeとした発現系の構築を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究申請時に、「余剰還元力を還元反応に利用することで、コハク酸生産を親株の2倍にすることを目指す。」という目的を掲げた。現在、ΔmenA大腸菌を親株とした系において、低酸化還元型キノンの発現株でのコハク酸合成を1.8倍に上昇させることに成功しており、当初の目的に近い数値が得られているため、研究がおおむね順調に進展していると判断した。なお、コロナ禍の影響を受け、ジャーファーメンターの導入が当初予定(2020年7月)より大幅に遅れ、2021年3月に導入が完了した状況である。本機の導入により、酸素濃度を制御した培養を自在に行うことが可能となり、低酸化還元電位型キノンの合成が物質生産におよぼす影響の解析や、物質生産の最適化を加速することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
①既に低酸化還元型キノンの合成に成功している大腸菌およびシゾンの系においては、通気を含めた培養条件の最適化を行う。特に、大腸菌では、ジャーファーメンターを用いた酸素濃度制御環境下でのキノン改変効果の違いを検証する。さらに、ΔmenA大腸菌を親株とする系を用い、代謝改変が電子伝達およびフマル酸還元反応におよぼす影響を評価する。また、還元的代謝が律速となる代謝反応である脂肪酸合成についても、キノン組成の改変による変化を調べる。 ②本研究は、代謝改変コンセプトの実証を目的の1つとしている。現在まだ実証に至っていない「従属栄養で生育可能な真核生物ミトコンドリアにおけるキノン組成改変とその効果の検証」を行うために、出芽酵母および分裂酵母における低酸化還元型キノン合成を行い、その物質生産におよぼす影響を解析する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により試薬およびプラスティック製品の納期に大きな遅れが生じており、3月末までの納品が困難なものが生じたため。
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