2021 Fiscal Year Research-status Report
電気を用いた遺伝子発現制御:電気微生物の電気刺激応答システムの解明とその応用
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20K21297
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
石井 俊一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究プログラム), 副主任研究員 (10556913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 謙吾 宮崎大学, 農学部, 准教授 (70581304)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | シトクロームC / Geobacter / 転写制御因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイオプロセスを用いた物質生産では、遺伝子の発現制御が重要であり、光、温度、電気などの物理刺激を用いて代謝経路のオン-オフを精密に制御するシステムの開発が待たれている。本研究では、化学物質を添加する遺伝子発現誘導方法に代わる新たな遺伝子発現の制御法として「電気」を利用する方法の可能性を探索する。その方法として、発電性ジオバクター(Geobacter)属細菌の電位認識機構を同定し、その遺伝子群を大腸菌に導入する。 本年は、まずジオバクター属細菌の電気刺激に応答したメタトランスクリプトーム解析から見いだされた遺伝子クラスター中に存在する転写制御因子3つと、マルチヘムシトクロームC(OmcQ、CbcA、CytB)に関して、AlphaFold2を用いた立体構造予測と、立体構造を基盤とした機能推定を行った。 次に、モデル電気微生物であるGeobacter sulfurreducens PCA株にて、3つのシトクロームC遺伝子群の遺伝子欠損株を作成した。これらの遺伝子を欠落したジオバクター属細菌を用いて電気化学解析を行い、これらの電位認識に関わると考えられる遺伝子群の機能解析を行うための準備を行った。さらに、別の微生物系統群に属するモデル電気微生物であるシュワネラ属細菌に、これらのシトクロームC遺伝子群を発現させて、タンパク機能を同定するため、コドン頻度を調整した長鎖DNAを作成し、Shewanella oneidensis MR-1株に遺伝子導入した。これらの変異株の遺伝子発現を確認後、その電流産生能力や電位認識特性の変化を調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、電気刺激に応答したメタトランスクリプトーム解析から見いだされた、ジオバクター属細菌に普遍的に見られた遺伝子クラスター(転写制御因子3つと、それによって制御されると考えられる3つのマルチヘムシトクロームCが含まれる)の機能解析を進めた。これらのタンパク質の膜貫通領域や細胞局在性を調べたところ、最も普遍性の高いシトクロームCである事が判明したOmcQ(CbcC)は膜タンパクでは無い事が分かり、ペリプラズム中を浮遊していると考えられた。OmcQと遺伝子クラスターを形成するCbcBは、Betaプロペラ様構造を持つポリン様タンパク質であり、6ヘムシトクロームCのCbcAは、一個の膜貫通領域を持つ事が分かった。この構造は、CbcABCが一般的なElectron conduitの構造をしている事を強く示唆している。また、CbcABCの遺伝子発現を制御している制御因子には電子授受に関わるヘムCを有していた。電気微生物以外にもこの制御因子は見られるが、ヘムC結合ドメインを有するのは、電気微生物と考えられる微生物がほとんどであり、電気を用いた遺伝子発現制御に大きく関わっている事が分かった。 モデル電気微生物であるGeobacter sulfurreducens PCA株にて、これらの遺伝子群の遺伝子欠損株を作成を行い、これらの遺伝子を欠落した変異株の作成に成功した。これらの変異株を用いた機能解析を行う予定であるが、コロナウィルスのパンデミックの影響で、機能解析までは進まなかった。また、他の微生物系統に属するシュワネラ菌で、これらの遺伝子群を発現させて、タンパク機能を同定するため、コドン頻度を調整した長鎖DNAの遺伝子導入を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
モデル電気微生物であるGeobacter sulfurreducens PCA株の、電位認識に関わると考えられる遺伝子の欠損株を用いて、電極還元や鉄還元およびフマル酸呼吸条件での増殖比較や、電位変化に対する微生物応答やサイクリックボルタンメトリーなどの電気化学解析を行い、Geobacter属細菌における当該シトクロームC遺伝子群を用いた電位認識機構を明らかにする。これにより、電位の変化に応答する転写制御因子(レスポンスレギュレータやセンサーキナーゼ)下にあるシトクロームCの機能を同定する。 また、別微生物系統のシュワネラ菌に、これらのシトクロームC遺伝子群を導入した変異株においても、遺伝子発現の確認後に、同様の電気化学解析を行い、電位認識に関わると考えられるタンパクの機能同定を試みる。
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Causes of Carryover |
本年度においても、Covid-19によるパンデミックが継続し、数度のまん延防止等重点措置などにより、研究活動の制限が続いた影響で、研究の遂行に支障が出たため、遺伝子組み換え実験の進行が遅れ、組み換え微生物を用いた解析を行うための実験消耗品等の使用がなかった。また、学会もリモートで行われると共に、分担者との打ち合わせも出張では無くリモートとなったため、旅費の使用も無かった。次年度にこれらの実験を行うために、繰り越した予算を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)