2021 Fiscal Year Research-status Report
体表ワックス成分変動で生じる共食い行動の分子メカニズムの解明
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20K21304
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 晋治 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40345179)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 昆虫 / 雑食性 / 体表ワックス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は次の3点である。①フタホシコオロギを用いて、CHCの生合成経路にかかわる因子を明らかにする。②CHCの組成が自然免疫系との関連性を明らかにする。③CHCの組成を操作することで共食い行動の変化を検討する。 ①~③の各項目の令和3年度での進捗と以降の方策はそれぞれ以下の通りに記す。 ①フタホシコオロギの共食いの異種同種に関わると考えられるCHCの生合成遺伝子は、令和2年度に同定したが、さらに詳細に探索すると、それぞれの遺伝子にはサブタイプがあることが分かった。伸長酵素や、不飽和化酵素、還元酵素はそれぞれ複数種が見出された。また、CHCのもととなる脂肪酸のトランスポーターも3種同定したが、その機能に関しては解析中である。一方、脱炭酸化酵素をコードする遺伝子はRNAiによりノックダウンすると、CHCの組成が変化した。このようにRNAiとCHC組成変化を指標に実験することで、CHCの生合成に関わる遺伝子を同定できる。 ②令和2年度までに同定したフタホシコオロギにおける自然免疫系にかかわる転写調節因子、抗菌ペプチドなどのうち、抗菌ペプチドをコードする遺伝子の発現量を解析したところ、Attacin-like peptide-1とー2の2種類が存在し、LPGとPGDの投与で、発現量がそれぞれ上昇することが分かった。つまり、フタホシコオロギでは、同様の抗菌ペプチドがグラム陽性菌とグラム陰性菌とが別のサブタイプの発現を惹起することがわかった。 ③共食い行動の検定法として、新たに孵化直後からの共食いによる検定系も確立した。これにより、CHC生合成の確立とその共食いへの関与を明らかにしている。実際には、①で明らかになった各種酵素のノックダウンコオロギを調製し、CHC組成と共食い行動を検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度の詳細の進捗状況は概要で記載した①~③の各項目それぞれについて以下に述べる。 ①フタホシコオロギにおけるCHCの生合成経路にかかわる伸長酵素FAS遺伝子、ELOVL遺伝子、不飽和化酵素Desat 7、脱炭酸化酵素CYP4G1をコードする遺伝子を同定した。また、それぞれにサブタイプがあったため、RNAiを用いてCHCの組成への寄与を指標に、CHC生合成経路および酵素遺伝子を突き止めている。また、脂肪酸のトランスポーターFATPも3種類を同定した。こちらも同様にCHCへの影響をRNAiによるノックダウン個体を用いて検討している。 ②フタホシコオロギから、抗菌ペプチドとしてAttacin-like peptideとして2種類を同定した。自然免疫系の賦活化物質としてLPGとPGDを投与したところ、別のサブタイプがそれぞれに応答することが分かった。このことから、フタホシコオロギでは、自然免疫系では、Attacin-like peptideを抗菌ペプチドとして利用していることが分かった。そのシグナルの下流とCHCとのつながりを検討中である。 ③孵化後の共食い行動を指標とした検定法をこれまでの検定法に加えて確立した。これにより、長時間観察が必要だった共食い行動の検定系も大量の検定ができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
フタホシコオロギのCHCの組成が個体認識のメカニズムを明らかにするため、令和4年度の方針として、①~③の各項目それぞれについて以下に記す。 ①令和3年度で同定した、フタホシコオロギにおけるCHCの生合成経路にかかわる伸長酵素、不飽和化酵素、還元酵素、脱炭酸化酵素をコードする遺伝子の各サブタイプのうちどれがCHCに関わるかを引き続き解析し、生合成経路を決定する。同様に、CHCに関わる脂肪酸のトランスポーターFATPのサブタイプも明らかにする。 ②令和3年度で同定したAttacin-like peptideを合成あるいは大腸菌発現系にて調製する。抗菌ペプチドがCHCの組成にかかわるかをノックダウンおよび合成ペプチド投与などで検討する。また、LPGやPGDを投与することによる共食いへの影響を検討する。 ③これまで、行動観察で検討していた共食いの評価系を、孵化後の幼生を用いることで簡便化が図れるようになった。この系をさらに発展させ、自動化ができるよう工夫し、迅速かつ大量にこなせる検定系を検討する。
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Causes of Carryover |
参加予定だった国際学会が次年度に延期になり、予定した旅費を使用しなかったことと、GCMS分析が滞り、思った測定数よりこなせなかった。そのため、次年度使用額が生じた。 令和4年度では、国際学会が行われることになり、実際参加予定である。また、GCMS分析をさらにスピードアップするために、LCMSも用いて同時並行で分析を進める予定である。
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Research Products
(4 results)