2020 Fiscal Year Research-status Report
ハスの「節」における環境情報統合とシグナル物質生産・分配機構の解明
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20K21306
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 洋平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00746844)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | ハス / 花成 / 栄養貯蔵器官 / 節 / FT |
Outline of Annual Research Achievements |
ハスは多年生の水生植物であり、開花期には地上部に花を咲かせる一方で、秋冬期には地下部に栄養貯蔵器官として肥大根茎を形成する。ハスの花芽形成には明確な光周期応答性がみられない一方で、根茎肥大については光周期応答性を示す。これまでに、ハスのFT/TFL1ファミリー遺伝子を網羅的に探索し、花成ホルモン(フロリゲン)および根茎肥大ホルモン(チューベリゲン)候補遺伝子の時・空間的発現パターンを解析した結果、これら遺伝子は地上部の葉ではなく地下部の“節”(せつ)部において開花や根茎肥大条件に応答してダイナミックな発現変動を示していた。本研究では、ハスの開花や地下貯蔵器官の形成機構を明らかにするため、ハス地下部の“節”(せつ)部に着目し、節部の内部構造、およびそこでの網羅的遺伝子発現プロファイルを明らかにすることにより、環境情報統合およびシグナル物質生産・分配の中枢器官としての節の役割を明らかにすることを目的としている。これまでに、自然環境下で栽培したハスの開花期と根茎肥大期、ならびに根茎肥大を抑制する電照処理区の地下部(節および節間)をサンプリングし、RNA-seqにより網羅的遺伝子発現を解析し、開花期と根茎肥大期にそれぞれ発現するFT/TFL1遺伝子を複数同定した。また、節の内部構造を観察し、維管束組織が高度に密集した節網維管束様構造の存在を明らかにした。加えて、in vitro無菌培養ハスを用い、高濃度スクロース処理と植物ホルモン処理による根茎肥大条件の検討、ならびに同条件の節部におけるRNA-seq解析を実施し、花成および根茎肥大制御に関与する遺伝子の候補を複数抽出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は予備実験として野外圃場で栽培したハス(品種‘毎葉蓮’)を用い、2020年10月に自然環境下栽培個体(ND:根茎肥大あり)と夜間電照栽培個体(NB:根茎肥大なし)の節および節間をサンプリングし、RNA-seqにより網羅的遺伝子発現を解析した。その結果、花成促進に機能すると考えられるNnFT2はNB条件下で発現が上昇し、一方で根茎肥大促進に機能すると考えられるNnFT3は同条件下において発現が低下していた。また、FTと複合体形成すると考えられるFD遺伝子のうち、新たにND条件下において発現上昇するNnFD2を同定した。加えて、花成抑制的に機能すると予想されるNnBFT1は根茎肥大を誘導するND条件下において発現上昇が確認された。これらの結果から、花成制御および根茎肥大制御に関わるFT/TFL1遺伝子とFD遺伝子の組み合わせと機能分化に関して以前の仮説がより補強される形となった。また、節内部構造観察用に野外栽培個体(開花期)の節部をサンプリングし、固定液にて固定、保存した。加えて、ハス無菌培養物(品種‘パワー’)の培養条件最適化に取り組み、高濃度スクロース処理ならびに植物ホルモン処理による根茎肥大条件を明らかにした。高濃度スクロース処理により肥大誘導個体と無処理個体の節部をサンプリングし、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を実施した結果、FT-FD複合体の下流で機能すると考えられるMADS-box型の転写制御因子であるAP1やSEP遺伝子の発現変動が確認された。加えて、複数のデンプン合成酵素遺伝子の発現変動を検出することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「課題1 組織学的観察による節の内部構造解析」 前年度にサンプリングした野外栽培個体の節部について連続切片を作製し、トルイジンブルー染色等により維管束構造を詳細に観察する。また、in situ hybridizationによりNnFT2, NnFT3, NnBFT1の発現領域を解析し、節網維管束様構造内での発現組織を特定する。
「課題2 ハスの「節」における網羅的遺伝子発現解析」 前年度に実施した野外栽培個体(‘毎葉蓮’)における予備的なRNA-seqの結果を受け、開花特性が異なる品種(難開花性の‘桜蓮’)ならびに根茎肥大性が弱い熱帯性の品種(‘カンボジア’)を加え、花芽形成期、開花期、根茎肥大期に分けて節部におけるRNA-seqをより詳細に実施する。無菌培養ハスのスクロース処理による根茎肥大条件の最適化に取り組み、昨年度より肥大誘導初期に着目してRNA-seq解析を実施する。
「課題3「節」と「葉」における日周変動・概日リズムの違い」 In vitro無菌培養ハスを継代培養・分根により増殖させ、解析に用いる十分な数の培養物を得た後、光周期条件下において葉と節を経時的にサンプリングし、代表的な概日リズムマーカー遺伝子の発現をQ-PCRにより解析する。葉と節においてリズム性に明確な違いが観察された場合にはRNA-seqにより網羅的発現解析を実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により交付内定時期が例年より遅れたため、当初予定していたハスの花芽形成期と開花期のサンプリングを行うことができず、それに関連したRNA-seq費用に余剰が生じたため。今年度は昨年度に実施できなかった分のRNA-seq解析を含めて実施する見込みである。
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