2020 Fiscal Year Research-status Report
イネ科植物いもち病菌が産生する小分子RNAの包括的理解
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20K21314
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中屋敷 均 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50252804)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | small RNA / いもち病菌 / RNAi |
Outline of Annual Research Achievements |
1.新奇sRNAのノーザン解析による検出 イネ科いもち病菌の新奇sRNAは次世代シークエンサー(NGS)を用いた網羅的なsRNAの解析からその存在が示唆されているものの、実際にどのような分子種が細胞内に存在しているのか知見がない。そこで新奇sRNAに相補的な配列をFITCラベルしプローブとしたノーザンブロットにより解析を試みた。コムギいもち病菌Br48株、およびそのDicer二重欠失変異体とRdRPの三重欠失変異体のそれぞれから全RNAを抽出しFITCラベルしたオリゴプローブを用いてシグナルを検出した。その結果、NGSによる解析結果と一致して、DicerやRdRPといったRNAi経路を担うタンパク質に依存せずに新奇sRNAが生成されていることが明らかとなった。興味深いことに、対象のsRNA以外に、より高分子領域に3本の強いシグナルが検出された。 2.新奇sRNAの機能解析 新奇sRNAの生物学的機能を調査する目的で、レポーターアッセイにより遺伝子サイレンシングへの関与の有無を検討した。eGFP遺伝子をAspergillus nidulansのTrpC遺伝子プロモーター制御下で発現させるコンストラクトの3’UTR領域に対象sRNAの相補配列を挿入した。このコンストラクトによる形質転換体におけるGFP蛍光を計測したが、sRNAの相補配列を持たないコントロールの蛍光値と有意差がなく新奇sRNAはRNAi経路では機能しないことが明らかとなった。 これらの結果は、生成経路から予想された通り、新奇sRNAがRNAi経路には関与しない分子であることをを示しており、これまでに知られていない小分子RNAであるとする仮説をサポートするものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、新奇sRNAの生成経路については、前駆体と思われる分子が発見されており、その分子機構を探る手掛かりが得られている。また、その生物学的機能については、予想された通りRNAi経路では機能しないことが示された。このことは、この小分子RNAが新規分子であることをサポートする知見であり、有用なものと考えられる。以上のことより、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、我が国の稲作において最重要病害と言えるいもち病菌における新奇sRNAの機能解明を目指したものである。生成経路やサイズから既知のsRNAとは性質が異なることが予想されていたが、本年度行った研究により実際にこれまでに知られているようなsRNAの機能には当てはまらないことが示された。では、これら新奇sRNAがどんな新しい生物学的機能を持っているという点が次の重要な問いとなるが、どのようなアッセイ系を使えば、それが分かるのかという点から試行錯誤を行わなくてはならない状態と言える。 現在、sRNAを転写している領域の欠失変異体を作製しているが、これも度重なる試みにも関わらず欠失変異体が得られず、欠失が致死性を持っている可能性も考えられている。新奇sRNAには複数の分子種があるため、ターゲットを変更して、欠失変異体の作製に取り組む予定である。一方、生成機構については、相同配列を持つ高分子RNAのクローニングに取り組んでおり、その塩基配列を決定することで、その機構を明らかにすることを予定している。
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Causes of Carryover |
令和二年度はコロナ禍の影響で、挑戦的研究(萌芽)の交付自体が遅れたこと、また予定していた学会への参加が出来なかったことなどが重なり、次年度使用額が生じた。この予算は、物品費として使用予定である。
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