2020 Fiscal Year Research-status Report
広葉樹の樹冠の進化生態学:高い光競争力は森林生産を犠牲にしているのか?
Project/Area Number |
20K21332
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小野田 雄介 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70578864)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 樹冠 / 安全率 / 力学 / 栽培実験 / クリ / 分枝 / 接木 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自然植生において、材強度・樹冠の形状・光獲得・光利用の関係性を明らかにし、広葉樹の樹冠形状が競争と森林生産に及ぼす影響を包括的に明らかにすることを目的としている。また栽培実験として、樹形に大きな変異のあるクリの複数の系統を用いて、密度操作実験を行い、樹形の違いが、光競争力と生産力にどう影響するかについても検証することを試みる。 落葉広葉樹5種、常緑広葉樹5種、常緑針葉樹5種について、樹冠の形状に影響する横枝の太さや長さ、材の強度やヤング率、密度を測定した。得られたデータを用いて、片持ち梁の理論を用いて、横枝支持における自重による安全率を計算した。材密度が高い種と低い種を比較すると、枝重量あたり横枝長さは変わらないが、横枝の安全率は、材密度が高い種のほうが高く、より安全に長く伸ばせることが明らかになった。つまり広葉樹は、材密度が高くても、横枝伸長に必要なバイオマス量を変えずに、より安全に伸ばせることが可能であり、それにより、広い樹冠を達成していることが推測された。これらの結果は投稿論文として準備している。 また他のプロジェクトによって推進した研究によっても、本研究に密接に関わる樹冠構造や光利用効率に関する研究知見が複数得られた。これらの研究は学会発表を行い、学会ポスター賞受賞などにも繋がった。針葉樹と広葉樹の樹冠形状と樹冠の譲り合いに関する研究は論文として受理された。その他の研究も論文執筆を進めている。 栽培実験においては、林木育種センター関西育種場とクリの共同研究の覚書を交わし、クリの穂木と種子の提供を受けた。種苗会社からクリの台木800株を購入し、8,000Lの培養土を用いて、ポットに植え付け、関西育種場から提供を受けた8系統の穂木を、台木に接木した。接木に成功した苗は1年間の育苗後、密度試験に供する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
樹木の樹冠形状を決定づける横枝の力学バランスについて、新規性の高い知見が得られた。また関連研究においても、複数の新規性の高い知見が得られ、学会発表や学会ポスター賞受賞にも繋がった。 クリの栽培実験においても、当初の不安材料(台木の購入や植付、土やポットなどの大量購入、圃場スペースの確保、穂木の入手と接木など)は、いずれも無事に解決し、育苗が今のところ順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
樹木の樹冠形状を決定づける横枝の力学バランスに関しては、昨年度のデータを踏まえて、再解析を行い、論文執筆を進める。 クリの栽培実験に関しては、接木を成功させ、少しでも多くの接木苗を育苗することが目標である。接木に失敗した個体については、5月中に再度接木を試みる。その後、接木が成功した個体については、芽掻き、施肥、害虫防除、日々の水やりなどの管理を行い、無事に実験に用いられるサイズまで成長させたい。 また関西育種場で穂木を採取したクリの系統については、成長速度や光獲得量などを計測し、樹冠形状と日射利用効率の関係を評価する予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度に形状していた接木苗の作成にかかる費用の一部が、次年度に形状することになったことと、新型コロナにより、出張を控えたため。
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Research Products
(9 results)