2021 Fiscal Year Research-status Report
魚類の成長ステージを把握する環境RNA手法の開発:ニホンウナギをモデルとして
Project/Area Number |
20K21335
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
高原 輝彦 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (10536048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土居 秀幸 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 准教授 (80608505)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 環境RNA / 環境DNA / ニホンウナギ / 性成熟 / 黄ウナギ / 銀ウナギ |
Outline of Annual Research Achievements |
水産資源において、成長ステージごとにおける生物量(バイオマス)の評価は、漁獲制限などを通じた資源量をコントロールする上で非常に重要である。本研究では、重要水産資源のニホンウナギ(Anguilla japonica)をモデルケースにして、野外調査では水1Lほどを採取するだけで、簡便に生物量を推定できる “環境DNA手法”を発展させて、異なる成長ステージのニホンウナギを区別・定量できる“環境RNA手法”を開発する。そして、開発した“環境RNA手法”を用いて、湖沼や河川などの野外環境において本種の回遊生態の一端を解明することを試みる。 今年度は、黄ウナギ(河川生活期で色が黄ばんでみえるステージの個体)と銀ウナギ(下りウナギ:海洋生活期に移行する銀色にみえるステージの個体)を区別できる定量PCR用プライマー・プローブの開発を進めるとともに、島根県出雲市の神西湖を調査フィールドにした毎月1回7地点で採水する野外調査を実施した。室内飼育実験の結果、性成熟に関わる性腺刺激ホルモンの一つを対象にしたプライマー・プローブを開発・使用することで、飼育水から銀ウナギのみを特異的に検出できることを明らかにした。その際、mRNAのエキソン同士の繋ぎ目にプローブを設定することで、イントロン配列を含むゲノムDNAの増幅を除外できることも示すことができた。また、神西湖における野外調査では、環境DNAに比べて、環境RNAの検出は困難であることが明らかになった。このことから、野外水中に含まれるニホンウナギの環境RNAは、非常に低濃度である可能性が考えられた。今後、環境RNA手法の野外調査への適用に向けて、野外水中に含まれる環境RNAを高濃度で収集できる方法の開発や、水サンプルの採取量の増加、低濃度の環境RNAでも検出できる新たなプライマーの開発などを検討する必要があると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度はとくに、既存のデータベースに登録されているニホンウナギのmRNA情報を利用した種特異的な環境RNA検出系の開発に注力した。その結果、非常に有用な検出系を開発することができた。一方で、成長ステージごとの遺伝子発現の違いに着目したRNA-seq法によるトランスクリプトーム解析については計画どおりに進めることができていない。しかしながら、今年度に有用な種特異的環境RNA検出系を開発することができたので、その知見も参考にしながら、効率的なRNAseq解析を実施できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究成果として、黄ウナギと銀ウナギを区別できる有用な環境RNA検出系を確立することができたと考えている。しかしながら、この環境RNA手法を野外調査へ適用させるためのいくつかの課題も明らかすることができた。つまり、野外水中に含まれる環境RNAは非常に低濃度であることから、それらをできるだけ高濃度で収集できる方法の開発や低濃度の環境RNAでも検出できる新たなプライマーの開発などが考えられる。そこでまずは、環境DNAの保存試薬として広く認知されている塩化ベンザルコニウム(通称BAC)が、環境RNAの減衰を抑制するのに効果的であるのかどうかを明らかにする。加えて、RNAseq解析による新たなプライマー候補の選定も進めていく。これらの得られた成果は学術論文や学会などで発表するとともに、一般市民向けの公開講座などでも紹介していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初、研究補助者の謝金として予算を計上していたが、今年度の研究計画を補助者無しで実施できたため使用する必要が無くなった。また、外注によるRNAseq解析が一部遅れており、予算の使用が少なくなった。しかし次年度は、謝金で研究補助者を雇用するなどして速やかにRNAseq解析に取りかかる準備を整えており、本助成金を問題なく使用できると考えている。また、当初の計画よりもサンプル数が増加しているため、今年度の未使用分は次年度に必要なRNAseq解析などの予算としても使用する。
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