2021 Fiscal Year Research-status Report
Identification of maturation-related pheromones in marine fish and the application of pheromone substances to aquaculture
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20K21339
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
征矢野 清 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80260735)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 成熟関連フェロモン / 成熟関連ホルモン / 成熟誘導 / 種苗生産技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、海産魚の成熟関連フェロモンの同定と役割解明、ならびにフェロモンを用いた全く新しい発想の種苗生産技術の開発の基盤形成を目的とする。これまでに私たちの研究グループは、ハタ類メスの成熟や排卵誘導にはオスからのフェロモン(成熟関連フェロモン)が介在することを発見しているが、その物質の同定には至っていない。また、産生器官および運搬放出器官として、精巣、肝臓、腎臓が推定されているが、その詳細は明らかにされていない。2020年度は、カンモンハタのオスの尿において、成熟期に出現するタンパク質を検索し、特徴的なタンパク質としてパルブアルブミンを検出した。 しかし、フェロモンとしての同定と役割解明には至らなかった。そこで、2021年度には、尿中におけるアミノ酸組成が重要であると考え、オスの尿をTCAにより除タンパク質処理したものを試料とし、遊離アミノ酸の組成の分析を行った。その結果、非繁殖期のオスではタウリン、グルタミン酸、アラニン、グリシンの順で濃度が高いが、繁殖期のオスではタウリン以外の他のアミノ酸は検出限界値に近い低値を示した。また、オスの尿を曝露した時のメスの嗅覚反応を調べるために、メスの嗅上皮を摘出して培養条件下でオス尿を添加した。その後、嗅上皮を固定して組織切片を作成し、神経および感覚細胞の機能的活動を評価するマーカーである Phospho-S6 抗体を用いた免疫組織化学により、嗅細胞の応答を観察した。この試験条件決定に時間を要したが、その方法が確立されたことから、現在、尿の曝露試験を進めている。また、コロナ感染拡大によりカンモンハタの採集のために沖縄に行くことが難しかったことから、長崎において入手しやすいアカハタを用いて、膀胱の状態や尿産生についての観察とそれを用いた実験の実施に向けた整備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に得られた情報をもとに、カンモンハタの尿におけるアミノ酸分析を実施した。その結果、非繁殖期と繁殖期のオスではアミノ酸の組成が違うことが分かった。今後、より詳細な検討を進め、フェロモンとの関連性を評価する必要があるが、フェロモンの同定と機能を解明するための新たな情報が得られたことは大きい。また、この尿がフェロモンとしてメスに感受されるか否かは不明であることから、「におい」の感受に伴う嗅細胞の応答の有無を、 Phospho-S6 抗体(神経および感覚細胞の機能的活動を評価するマーカー)を用いて免疫組織化学的に明らかにすることを試みた。これには、魚の鼻から嗅細胞を取り出し、それを培養液の中で安定保持する必要がある。また、尿の曝露方法についても検討する必要がある。そこで今年度は、本格的な培養開始に先立ち、培養条件の検討を開始した。その結果、培養条件下でカンモンハタの嗅細胞を安定保持できる技術開発に成功した。これは、フェロモン応答の解明に繋がる新規性の高い成果の取得を可能とする。現在、嗅細胞と嗅神経に尿を曝露した試験を実施している。 コロナ感染拡大防止のため、カンモンハタを沖縄まで捕獲に行くことが困難であり、尿や精巣に含まれるタンパク質及びステロイドの分析は一時中断した。 長崎で捕獲が容易なアカハタを用いた雄雌間のコミュニケーション研究の体制整備に向け、膀胱や生殖腺の形態観察を行い、2022年の実験に向けた準備を進めている。このようにコロナ禍ではあるものの、目的達成に向かって順調に研究は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、フェロモン物質の同定と、その産生あるいは存在場所の確定を進めている。海産魚類のフェロモンの同定はかなり難しいと予想されていたが、本研究においても同定には障害が多い。かなり多くの物質の同定を進めているが、まだ、フェロモン物質の特定には至っていない。しかし、組織培養と免疫組織化学的手法によって、嗅細胞がにおい物質に応答するか否かを判定することが可能となったことから、この方法を使って、嗅細胞に尿、生殖腺抽出物などを曝露させることでその応答の有無を見ることを計画している。2021年度には培養の条件等を決定したことから、2022年度には本格的に応答試験を進め、フェロモン物質の探索を、物質そのものの分析とは異なる視点から進める予定である。また、今年度もコロナ感染拡大の影響が続くと予想されることから、アカハタを使った飼育実験によってフェロモン候補物質による産卵誘導の可能性を探る。沖縄でのカンモンハタ採集が可能となれば、実験魚の確保を早い時期に行い、アカハタと合わせてフェロモンの同定と応答解析を進める予定である。
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