2020 Fiscal Year Research-status Report
Induction of artificial hibernation for medical application of characteristics of hibernators
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20K21366
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
志水 泰武 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40243802)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎名 貴彦 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (90362178)
海野 年弘 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90252121)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 冬眠 / 人工冬眠 / 低体温 / 低温ショックタンパク質 / 虚血再灌流障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬眠中の動物が示す特徴は驚異的であり、これを冬眠しない動物で再現できれば、ヒトや伴侶動物の医療に大きな変革をもたらすことが期待できる。本研究は、第1に冬眠しない動物を人工的に冬眠状態とし安全に覚醒させること(人工冬眠への挑戦)と、第2に有用な特性を人工冬眠させた動物で再現すること(医療応用への挑戦)を目的とする。これまでに、冬眠動物であるハムスターを用いて人工低体温誘導法を確立してきたので、本研究はこの方法を冬眠しないラットやマウスに適用することが主体となる構想である。冬眠動物の特性をひとつでもラットやマウスで再現することができれば、大きな突破口を開くことになる。 令和2年度は、ハムスターで成功した2つの人工低体温誘導法、すなわちアデノシン受容体作動薬の脳室内投与後に冷却する方法と、イソフルラン吸入麻酔下で冷却しマイルドな低体温で数時間維持した後に体温を低下させる方法を、冬眠しない動物(ラット、マウス)に適用し、人為的な低体温誘導を試みた(第1の目的に相当)。まずラットの脳室内にアデノシン受容体作働薬を投与したところ、低体温が誘発された。また、ラットおよびマウスをイソフルラン吸入麻酔下で冷却した場合も、冬眠様の低体温へと誘導し、さらに低体温から通常体温へと回復することに成功した。心電図や血液生化学検査により、低温性障害を検討したところ、アデノシン受容体作動薬とイソフルラン麻酔いずれの方法でも、重度の低温障害を引き起こすことはないことが明らかとなった。また、細胞保護作用のある低温ショックタンパク質CIRP (cold inducible RNA binding protein)の遺伝子発現が、人為的な低体温下で冬眠と同様のパターンを示すことが解明された
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、冬眠動物で確立した人工低体温誘導法を冬眠しない動物(ラット及びマウス)に適用し、低体温が誘発されるか否か解明することを目標とした。ラットに麻酔をかけた状態で冷却すると、体温が経時的に低下するものの25℃を下回ると心室細動が発生し目標とする低体温にすることができなかった。この結果は、20℃以下の体温で心拍動を維持できることは冬眠動物に固有の性質であり、非冬眠動物には不可能であるとする従来からの定説に一致するものである。しかしながら、2つの独立した方法で冬眠しない動物を20℃以下の低体温に誘導でき、この定説を覆すに至った点は大きな成果である。 特に、イソフルラン吸入麻酔下で冷却し体温を低下させる方法では、吸入麻酔を停止させるタイミングが重要であることを解明した。吸入を停止させることなく20℃以下に体温を下げると、心停止が誘発された。一方、早い段階で吸入を停止すると震えが起こり自発的に体温が上昇した。自発的な体温上昇反応を抑制しつつ、低体温下で麻酔剤の致死的な影響を回避するプロトコールを試行錯誤の結果として確立させた。この方法で誘導した低体温は、回復させることが可能であったが、体温を上昇させる過程でAST,ALT,LDHなどの血中逸脱酵素の上昇をもたらすことから、臓器傷害起こる可能性が示唆された。一方、20℃以下の体温を維持する時間が長くなることも、臓器傷害の一因となることが判明した。しかしながら、これらの値の上昇は一過的であり、低体温を6時間維持した場合でも、正常体温に復帰した後24時間以内に元のレベルに戻ることがわかった。すなわち、影響の少ない安全な低体温誘導法が確立できたと言える。この成果は、論文としてまとめ、J. Physiol. Sci.に受理された。このように実験成果とその公表に至ったことから、研究は順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
冬眠中の動物には、虚血性傷害がない、骨格筋の萎縮がない、感染に耐性がある、放射線に耐性がある、寿命が延長する、等の驚異的な特徴が知られている。これらの特徴を冬眠しない動物で再現できれば、ヒトや伴侶動物の医療に大きな変革をもたらすことが期待できるが、冬眠しない動物に極度の低体温を誘発できないことが課題であった。初年度にラットを20℃以下の低体温とし、6時間まで維持することができたので、2年目となる令和3年度は、冬眠動物の示す有用な特徴が、非冬眠動物において再現できるか否かを検討する。具体的には、通常の体温では傷害の出る線量の放射線を低体温誘導したラットに照射し、放射線への耐性を調べる実験や、脳と心臓の血管を結紮し虚血に対する抵抗性を調べる実験を行う。また、骨格筋萎縮と関連する分子の発現動態を通常体温と低体温の動物で比較し、廃用性萎縮に対する抵抗性を調べる。感染症に関する抵抗については、潜伏期の長い狂犬病ウイルスを活用しウイルス耐性能を調べる。その他、LPSによる炎症、四塩化炭素による肝障害、フェニルヒドラジンによる貧血、ストレプトゾトシンによる糖尿病等、有害薬剤への応答性を調べる実験も実施する予定である。必要に応じてin vitroの実験を組み合わせ、正常体温の動物と比較しながら優位性を検討する。 低体温の効果に関する機序を解析する実験では、前年度の成果を踏まえて、CIRPに着目する。CIRPの発現制御やCIRPの細胞保護機能に焦点を当てた研究を展開する。CIRPが冬眠時と同じような発現パターンを示す条件を詳細に明らかにし、その条件下で細胞保護機能が発揮されるかどうかを病理組織学的、血液生化学的に検証する。
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