2020 Fiscal Year Research-status Report
波動性細胞収縮力と細胞間コミュニケーションの統合的理解
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20K21411
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 恭之 京都大学, 医学研究科, 教授 (50580974)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | TRPC1 / 細胞内カルシウム / 細胞競合 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞層において、各々の細胞は隣接する細胞と様々なコミュニケーションを取り合うことによって、協調的な細胞社会を形成している。一方、細胞層中に、性質の異なる変異細胞が出現した時、周りの正常細胞と異常な細胞との間で互いに生存を争う「細胞競合」という現象が起こることが、申請者らの研究によって明らかになってきた。しかし、上皮細胞同士がどのようにして隣接する細胞の「同質」性あるいは「異質」性を認識しているのか、その細胞間認識機構については、未解明のまま残されている。これまでの研究によって、いくつかの膜タンパク質が細胞間認識機構に関わる分子として提唱されてきたが、いずれも細胞競合を含む多彩な細胞間コミュニケーションを普遍的に制御するものではなく、まだ同定されていない細胞間認識機構の存在が想定されている。これまで本研究領域では、リン酸化などの化学的なシグナル伝達を制御する分子群の関与について、研究が進められてきた。一方、『物理的なパラメーターが細胞間認識機構に関与している』という可能性については、研究はほとんど進展してこなかった。 そこで、正常細胞と変異細胞の混合培養条件下における様々な物理的パラメーターを調べたところ、正常細胞側でメカノセンシティブカルシウムチャンネルTRPC1を介した一過性の細胞内カルシウムの上昇が亢進していることが明らかになった。さらに、正常細胞の形質膜にかかる膨張力が混合培養条件下で上昇することも分かった。これらのデータは、隣接する変異細胞の存在を正常細胞がなんらかの機序で認識し、物理的性状を変化させていることを示している。このように新規性の高い重要な知見を得ることができ、今後の研究進展の礎を築くことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常上皮細胞と変異細胞間に生じる細胞競合と物理的因子の関連を調べるために、これまで様々な要因の関与を探索してきた。その結果、正常細胞と変異細胞の混合培養条件下において正常細胞側で、メカノセンシティブカルシウムチャンネルTRPC1を介した細胞内カルシウムの一過性上昇が生じることが明らかになった。正常細胞のTRPC1をノックダウンすると、正常細胞に囲まれた変異細胞の管腔側への逸脱が抑制されることから、この細胞内カルシウム上昇が細胞競合現象の重要な制御機構であることが分かった。 さらに、形質膜にかかる張力のセンサープローブを用いて、正常細胞と変異細胞の混合培養条件下とそれぞれの細胞の単独培養条件下での比較をおこなった。すると混合培養条件下において、変異細胞に隣接する正常細胞で形質膜の膨張力が亢進することが分かった。 このように、細胞競合が生じる条件において、形質膜の伸長という物理的変化が競合の勝者である正常細胞側に生じ、それが細胞競合現象に影響を与えることが明らかになった。この知見は、細胞競合と物理的要因の関連を示唆する世界的にも新規性の高いものであり、今後の研究の発展が大いに期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、TRPC1を介した細胞内カルシウム上昇と形質膜伸長の機能的関連を調べるとともに、これらの現象の上流でどのような分子メカニズムが働いているかを明らかにしていく。研究の進展によって、細胞競合現象と物理的要因の関与という新たなパラダイムへの展開を図りたい。また、正常細胞が変異細胞に生じるどのような変化を認識し、対応しているのか、という細胞競合現象の最も根本的な問いに迫ることが期待できる。
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Research Products
(10 results)