2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K21412
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小金澤 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (10302085)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | Drosophila / fruitless / 求愛行動 / 行動進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ショウジョウバエ神経系の性差形成はfruitless (fru) 遺伝子が司っている。本研究は、fru遺伝子の発現制御配列の変化などによってfru発現神経回路の接続が変化することが求愛行動パターンの種特異性を生み出していると想定し、キイロショウジョウバエD. melanogasterとは大きく異なる求愛行動パターンを示すD. subobscuraに注目している。D. subobscura雄の求愛行動では、大きく吻を伸ばし吐き戻した液滴を雌に与える「婚姻贈呈」が特徴的である。本研究に先立ち、D. subobscuraのfru遺伝子の5'上流配列にGAL4遺伝子を連結した人工遺伝子(= sub-fru-GAL4)をD. melanogasterに導入したトランスジェニックハエを利用し、sub-fru-GAL4発現ニューロン群の強制活性化を行うと婚姻贈呈様の吻伸展が誘導されることを見出し、モザイク解析によりこの行動を誘起した原因ニューロン(Kissニューロン)を同定していた。 本年度は昨年度に続きKissニューロンの機能解析を行った。前年度までにKissニューロンのシナプス伝達阻害により求愛行動要素の一つであるリッキングが抑制されることを見出していたが、今回さらに摂食後の溶液吐き戻し行動も抑制されることを確認した。また、D. melanogasterのKissニューロンにはfru遺伝子は発現していないが、GAL4/UASシステムを用いてFruタンパク質を異所的に発現したところ、求愛行動時のリッキング生起頻度が上昇する可能性を見出した。さらに名古屋大・田中良弥博士との共同研究により、D. melanogasterのKissニューロンを標識するGAL4ドライバーをD. subobscuraゲノムに挿入したトランスジェニック系統を確立し、その機能解析に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、GAL4/UASとLexA/lexAopを組みあわせたKissニューロンを選択的に標識可能な系統を利用し、吻の運動を要素とする行動へのKissニューロンの機能阻害の影響を調べた。今回新たに摂食後の吐き戻しにもこのニューロンが関わることを見出したことは、Kissニューロンの機能を解釈する上で新しい視点をもたらすことができた。また、D. melanogasterでは発現しないfru遺伝子のKissニューロンへの異所発現が、求愛行動の要素であるリッキングに影響を与えたことは、他種のKissニューロンホモログにFruタンパク質が発現することにより求愛行動パターンが変化しうることをサポートするものであった。さらに、懸案であったKissニューロン標識配列を持つGAL4ドライバーをゲノム編集技術によりD. subobscuraゲノムに導入できたことは、種特異的求愛行動パターンとその原因ニューロンそしてfru遺伝子発現の関与を探る上で重要な一歩となった。
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Strategy for Future Research Activity |
D. melanogasterを用いた研究としては、2020年度に確立したKissニューロンを選択的に標識できる系統を利用して、Kissニューロンの機能解析をさらに進める。Kissニューロンの機能を理解する上で、このニューロンの上流および下流に位置するニューロン群を特定することが重要である。機能的な解析として、①上流候補ニューロンをTrpA1などで興奮させた上でKissニューロンのシナプス伝達阻害実験を行う、②Kissニューロンを強制活性化した上で下流候補ニューロンの機能阻害実験を行う。さらにGRASP法やtrans-TANGO法を用いてKissニューロンを含む神経回路網の解剖学的な接続関係を解析する。D. melanogasterのconnectomeデータベースはこれまではKissニューロンの存在する食道下神経節は対象外であった。しかし最近確立されつつあるFlywireデータベースでは食道下神経節のニューロンも対象としているため、これを利用したKissニューロンの網羅的接続解析を試みる。D. subobscuraを用いた研究としては、2021年度末に確立したKissニューロン標識配列を持つGAL4ドライバーを挿入されたトランスジェニック系統の機能解析に注力する。
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Causes of Carryover |
今後の研究推進として、D. melanogasterにおいてはKissニューロンの機能的接続関係の解析を主軸としている。この解析には既存の行動実験装置では対応できない新しい装置の作成も必要となると考えている。またD. subobscuraを用いたトランスジェニックハエの作出は、研究協力者とともに2021年度後半に着手したが、現段階では確立した系統がD. subobscura脳内でKissニューロン様の細胞を標識できるか十分に解析できていない。使用する配列の再検討、さらにD. subobscuraのゲノム配列の利用など、D. subobscuraで複数のゲノム編集系統を確立する必要が浮上した。これらの新しい展開に備えて経費の一部を次年度に残して運用することとした。
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