2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K21416
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 崇 東京大学, 物性研究所, 助教 (90589962)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 脳深部 / 光生物学 / 視神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類を含む多くの脊椎動物の脳深部には光受容タンパク質オプシンが発現しており,光センサーの機能を持つ細胞による「脳内光受容」が行われていることが示唆される。しかし特に哺乳類などでは、頭上からの光は毛・皮膚・頭蓋骨・脳組織によって反射、吸収、散乱を受けるため、脳深部まで光が届くのかについては疑問視されている。本研究では脳深部へ光を伝達し得る新たな経路の候補として視神経に着目する。視神経は眼の中の網膜から脳深部へと伸びており、ミエリン化された神経軸索が束となっている。屈折率の低い軸索と屈折率の高いミエリンが寄り集まった構造は光ファイバーの構造と類似し、散乱や吸収による大きな損失のないまま光を伝達できる可能性が考えられる。そこで、視神経の光学的特性を明らかにし、視神経が脳深部へ光を伝達する可能性を検証することを目指し、研究を進めている。 本年度は、主に光計測系の構築を進めた。本研究計画では、マウスやラットの視神経が脳深部へ光を伝達する可能性を検証するため、「視神経が軸方向にどの程度の効率で光を透過させるか」、および「眼外から視神経に入射した光が脳深部にどの程度到達するか」について定量的に計測し、脳組織を光が透過する効率と比較する。この解析のため、高感度かつ光ファイバーに接続できる分光光度計が必要となる。製品の比較検討を行った結果、OceanView社QEPROがこの目的に適していた。この分光光度計を用い、ラットの脳の厚みに相当する20 mm程度の生体組織について、十分なS/N比で透過スペクトルを測定できることを確認した。また、組織学的解析のために用いるゼラチン包埋切片の作製条件についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では視神経および脳組織の光透過特性を調べるために、十分な性能を持つ光計測系を確立することが何より重要であったが、当初の見積もりよりも高い感度・波長分解能での分光測定が可能な実験系を立ち上げることができた。このことから、次年度以降に行う実際の生体組織を用いた実験のために必要な準備を着実に進めることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従って、実験動物から取り出した視神経の光透過特性の解析、および無傷の眼球・視神経を通って脳内へ到達する光の定量的解析を行う。後者については、まずは物理学的に分光光度計を用いた計測を行うとともに、より高い空間分解能でどこに光が到達しているかを組織学的に調べるための実験手法の確立について取り組む。
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Causes of Carryover |
当初は2種類の実験に別々の光計測系を構築して用いる予定だったが、使用する機器の検討の結果、いずれの実験にも使用可能な実験系をつくることができた。このために当該年度で必要な金額が当初の見積もりよりも少なくなった。この分の予算は、次年度の実験動物を使った光計測実験をより確実に行うために、追加の光学系部品や実験動物、消耗品の購入費用に当てる。
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