2020 Fiscal Year Research-status Report
低毒性かつ迅速なタンパク質分解系・AID法を用いた人為的細胞周期制御
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20K21423
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
嘉村 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40333455)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 浩平 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (80582709)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | オーキシン / AID法 / 動物培養細胞 / タンパク質分解 / ユビキチンプロテアソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は研究分担者により開発された速やかなタンパク質分解系であるAuxin Inducible Degron (AID)法【Nat Methods 6:917 (2009)】を用いて、哺乳類培養細胞系において、人為的な細胞周期コントロールを行うことである。上記の目的を達成するためには細胞にとって低毒性かつ高効率なタンパク質分解系が必要不可欠となる。AID法は高効率かつ速やかに標的タンパク質の分解を誘導することが可能であるが、タンパク質の分解には高濃度のオーキシンが必要となり、長時間の培養においては細胞毒性を示してしまうことがある。そのため、より低濃度での分解誘導を可能とする高感度AID法の開発に取り組んだ。高感度AID法の構築には名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所で開発された合成オーキシンと変異型TIR1の高感度ペアを利用した。イネの変異型TIR1であるOsTIR1F74Aと合成オーキシンの一つである5-Ad-IAAを組み合わせ、AID法を作成したところ、様々な動物の培養細胞において従来のAID法よりも1000倍もの効率で分解誘導が可能であることがわかった。以上の結果は今回作成された高感度AID法では従来のAID法と比較して1/1000の濃度で分解誘導が可能となり、動物細胞に対する化合物毒性を著しく減少させることが可能となった。本研究成果は、2020年9月17日付(英国時間)英国科学雑誌「Nucleic Acids Research」のオンライン版に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一段階の目標としていた人工的変異オーキシンを用いた低毒性なタンパク質分解系の開発に成功した。今回作成された高感度AID法では従来のAID法と比較して1/1000の濃度で分解誘導が可能となり、動物細胞に対する化合物毒性を著しく減少させることが可能となった。次にこの方法を用いて細胞周期制御を行うためにCdk1、Cdk2、そしてCDK阻害因子であるp16、p21、p27に注目した。dominant negative型Cdk1(Cdk1dn)、Cdk2(Cdk2dn)もしくはCDK阻害因子を細胞に過剰発現させることにより、細胞周期の停止を引き起こし、AID法による分解で、細胞周期のリスタートを試みた。テトラサイクリンにより過剰発現を誘導することができるTet on systemを用いて、OsTIR1F74AとGFPとAID-tagとを付加したそれぞれの因子をHeLa細胞、マウスES細胞などに導入し、テトラサイクリンによる発現誘導ののち、AID法によるタンパク質分解を試みた。しかし、Tet on systemにより標的タンパク質の発現量が多くなりすぎていたため、AID法によるタンパク質の除去が困難であることがわかった。そのため、システムを切り替え、テトラサイクリンにより転写を阻害するTet off systemとAID法を用いて発現量を制御しよう考えた。つまり、テトラサイクリンを除くことにより、標的タンパク質の発現を誘導し、テトラサイクリンと5-Ad-IAAの添加によって、標的タンパク質の転写をストップさせ、タンパク質の分解を誘導するというものである。今後はテトラサイクリン除去により、上記の因子を発現させた際に細胞周期の停止が確認されるかを軸に解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は研究分担者により開発された速やかなタンパク質分解系であるAuxin Inducible Degron (AID)法【Nat Methods 6:917 (2009)】を用いて、哺乳類培養細胞系において、人為的な細胞周期コントロールを行うことである。この目的のためには速やかなタンパク質分解系であるAID法のみならず、標的とする因子をどのようにして細胞内に導入するかも重要な問題となる。本年はテトラサイクリン依存的な標的タンパク質発現系(Tet on system)を用いてCdk1dn, Cdk2dn, もしくはCDK阻害因子(p16, p21, p27)の発現誘導を行った。しかしながらテトラサイクリン依存的な標的タンパク質発現系は大過剰に標的タンパク質の発現が起こってしまうため、AID法による標的タンパク質の分解が追いつかず、分解が十分に起こらないということが明らかとなった。そのため、今後は発現量を抑えたタンパク質発現系を用いてCdk1dn, Cdk2dn, もしくはCDK阻害因子(p16, p21, p27)の発現誘導を行う。また他の方法によって、細胞内への上記の因子の導入が行えないかを検討する。Cell-penetrating peptide (CPP)と総称される膜透過性ペプチドはこれを付加したタンパク質の膜透過を促進する。また、ピレンブチレートを用いることによって、膜透過性をさらに向上させることが可能であり、細胞にダメージを与えることなく、細胞にタンパク質を導入することが可能である。そのため、このCPPを用いて上記の細胞周期因子を細胞内へと導入し、AID法によって導入されたタンパク質の分解を行うことができないかを検討する。
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Causes of Carryover |
理由)今年度は、試薬や器具類の効率的な使用により、想定したよりも研究費が少額で済んだ。そのため、次年度使用額が生じた。 (計画)今年度余った研究費は次年度配分額と合わせて、次年度の研究遂行に使用する。次年度の研究には高額な試薬や検査を予定している。
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