Outline of Annual Research Achievements |
ヒトゲノムの98%はタンパク質をコードしないノンコーディング配列である。これまでの分子遺伝学を用いた睡眠/体内時計の研究では遺伝子のコーディング部位の変異を基盤とした研究が主に進められてきた。本研究では、当初の研究計画に従い、ノンコーディングゲノム領域に隠されたヒトの朝型・夜型を決める制御機構の同定という挑戦に向けた調査スクリーニングを行った。まず、ゲノムコホート解析において割り出された朝型・夜型に相関する一塩基多型(SNP)やサーカディアンクロックに関連する遺伝子群のノンコーディングゲノム領域にある配列の中でも種間で強く保存される特別な配列に着目し、候補となるエレメントの抽出を行い、その一部については変異マウスの作製に着手することができた。また本年は、私共が体内時計遺伝子の5’上流のノンコーディング域にあるシスエレメントに点変異を導入して作成したマウス(Per2 E’-box mutマウス)を用いて得た研究成果を日本語総説として発表するができた(Nguyen Pham Khanh Tien、土居雅夫: 時計遺伝子の転写のシス制御エレメントに点変異を入れると体内時計はどうなるのか, 生化学 92, 735-739, 2020)。重要なことに、本シスシスエレメントは細胞・組織における遺伝子のサーカディアン発現リズム、ならびに、個体レベルにおける活動・体温の日内リズムの正常な維持に必要である。このようにノンコーディングゲノム領域の体内時計や睡眠機構に対する役割は想像以上に大きい可能性がある。本研究は初年度のスクリーニング段階であるが、当初の計画に従って研究を進めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に従ってノンコーディングゲノム領域に隠されたヒトの朝型・夜型を決める制御機構の同定という挑戦に向けた調査スクリーニングを行った結果、研究が順調に進み、いくつか可能性のある候補エレメントの選定を行うことができた。すなわち、最近のゲノムコホート解析において割り出されたヒトの朝型・夜型に相関するSNP(Nature Commun 7, 10448, 2016; Nature Commun 7, 10889, 2016; PLoS Genet 12, e1006125, 2016; Nature Commun 10, 343, 2019)やサーカディアンクロックに関連する遺伝子群(Per1, Per2, Per3, Cry1, Cry2, Clock, Npas2, Bmal1, Nr1d1, Rora, Rorb, Rorc, Dec1, Dec2, Dbp, E4bp4, Csnk1e, Csnk1d)のノンコーディングゲノム領域にある配列の中でも種間で強く保存される特別な配列に着目し、候補となるエレメントの抽出を行い、その一部については変異マウスの作製に着手することができた。今後の変異マウスの樹立ならびにそのフェノタイプ解析の成否を待たねばならないが、まずは当初の計画に従って研究を順調にスタートさせることができたといえる。
|