2020 Fiscal Year Research-status Report
精細胞を覆う機能未知の膜構造の崩壊制御に着目した植物受精メカニズムの解明
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20K21432
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (80724111)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 花粉管 / 精細胞 / 内部形質膜 / 栄養核 |
Outline of Annual Research Achievements |
被子植物の精細胞は花粉管と呼ばれる細い管状構造の内部を通り、胚珠の中にある卵細胞まで届けられることで受精を行う。花粉管伸長の間、精細胞は2つ1組が内部形質膜とよばれる栄養細胞の単膜花粉管栄養核とつながった雄性生殖単位として共に行動する。これまで、シロイヌナズナの重複受精のダイナミクスをsemi-in vivo受精系を用いて観察したところ、花粉管から精細胞が胚珠に放出された瞬間に内部形質膜が崩壊して精細胞が細胞膜を露出させることが示唆された。受精直前における内部形質膜崩壊のメカニズムに迫るため、2020年度ではanx1 anx2を共にヘテロにもつ変異体の観察を行った。培地上で花粉が花粉管を伸長させた直後に自律的に破裂したとき、内部形質膜も素早く崩壊することが示唆された。加えて、低頻度ながら培地上で自律的な放出を示す野生型の花粉管においても、放出に伴う内部形質膜の崩壊は観察された。以上の結果から内部形質膜の崩壊は、雌側組織である胚珠からのシグナルを必ずしも必要とはせず、むしろ、花粉管の細胞壁の完全性をモニタするANX経路と強い相互作用をもつことが示唆された。 一方、内部形質膜のプロテオーム解析を起点とした内部形質膜崩壊因子の探索については、候補となる4つの因子の細胞内局在を蛍光タンパク質であるCloverを融合したレポーター系を構築することで調べた。その結果、全てが成熟花粉で発現していたものの、内部形質膜ではなく細胞内の小胞構造がラベルされていた。従って、われわれがプロテオームで明らかにした内部形質膜局在タンパク質候補のリストの多くは、内部形質膜以外の膜構造の混入で目的外のオルガネラに多量に存在するタンパク質である可能性が高いことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
anx1 anx2二重欠損を持つ花粉管の解析については、稔性が極端に低かったためか、変異アレルを共にホモに持つ植物が選抜できず、解析の遅延が発生した。また、プロテオームを起点にした解析については、期待された細胞内局在を示す因子が得られず、そもそもの候補遺伝子リスト自体の見直しが必要となっている。その一方で、anx1 anx2二重欠損を持つ花粉管や野生株の花粉管の培地上における放出を観察することで、内部形質膜の崩壊とANXによって制御される花粉管の放出との強い相互作用が浮かんできた。このように、内部形質膜の崩壊を誘導するために必ずしも雌側のシグナルを必要としないことがわかり、今後の内部形質膜崩壊メカニズムの解析系を花粉粒や花粉管のみで構築することが可能ということが示唆された。花粉や花粉管は植物の花から多量に調整することが可能であり、顕微鏡観察も高倍の対物レンズを用いた質の高い解析ができる利点がある。解析系構築が進めば自ずとANXシグナルの役割の解明の目処も立つと期待される。以上の理由から、2020年度の研究は遅滞しているが一定の進展が認められたと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
われわれの仮説通りにANX経路が花粉管の放出だけでなく、内部形質膜の崩壊も制御しているのであれば、両方のイベントのタイミング制御に疑問が残る。すなわち、花粉管の放出と内部形質膜にの崩壊を受容体型キナーゼであるANXによる下流のシグナル制御のみで制御すると仮定した場合、シグナルが一定の域値に到達したと同時にこれらのイベントを同期して引き起こすために厳密な制御が求められる。そのようなメカニズムよりも、花粉管の放出時に発生する別の細胞内シグナルをANX経路と共に要求する仕組みの方が合理的である。これまでの他グループの先行研究により、放出時の花粉管には活性酸素種のシグナルや細胞内カルシウム濃度上昇のシグナルが一過的に発生することが示されている。そこで、ANX経路の下流シグナルが弱まって花粉管が放出する直前に活性酸素種や細胞内カルシウム濃度上昇などの生理学的刺激を与えることで、内部形質膜の崩壊が誘導できるかどうかを検討する。 また、内部形質膜における崩壊制御因子の探索については、これまで内部形質膜マーカーとして用いてきたLyn24-mNeonGreenよりも特異的に内部形質膜に局在するものを探索して再度挑戦する。その他にも、Lyn24-mNeonGreenを遺伝的背景に持つシロイヌナズナを用いた順遺伝学研究も今後計画しており、状況が整えば、内部形質膜崩壊のタイミング制御異常を示すような変異体が得られると考えている。これらの解析を通じて、内部形質膜における崩壊制御因子の探索に挑戦をする。
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Causes of Carryover |
プロテオームの情報をもとにして得られるはずであった内部形質膜に特異的に局在するタンパク質の候補が、実際には得られなかったため、それ以降予定していた変異体解析をはじめとする実験が遂行できなかった。その影響を受けて、一部の消耗品の購入が延期となった。また、新型コロナウイルスの蔓延の影響を受けて、海外の開催地を含めた各種学会の延期や中止があった。また、共同研究者である立命館大の元村博士との技術移転に伴う出張もなくなり、旅費を使わなかった。 繰り越された金額については、本計画の遅延を取り戻すための物品購入や人件費などに充てる予定である。
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Research Products
(4 results)