2021 Fiscal Year Research-status Report
精細胞を覆う機能未知の膜構造の崩壊制御に着目した植物受精メカニズムの解明
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20K21432
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (80724111)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 花粉管 / 精細胞 / 内部形質膜 / 栄養核 |
Outline of Annual Research Achievements |
被子植物の精細胞は花粉管と呼ばれる細い管状構造の内部を通り、胚珠の中にある卵細胞まで届けられることで受精を行う。花粉管伸長の間、精細胞は2つ1組が内部形質膜とよばれる栄養細胞の単膜花粉管栄養核とつながった雄性生殖単位として共に行動する。シロイヌナズナの重複受精のライブイメージングから、内部形質膜は精細胞が放出された瞬間に崩壊して精細胞膜を露出させることがわかった。その生理的な性質と研究の今後の展望についてのまとめを、2022年6月発行の「月刊細胞」に概説した。 これまでは内部形質膜局在タンパク質を内部形質膜崩壊のレポーターに用いていたが、我々は内部形質膜と精細胞の間に蓄積する多糖分解酵素を蛍光タンパク質でラベルしたものが、内部形質膜崩壊による漏出に伴ったシグナル低下を指標に内部形質膜の完全性を感度良くモニタできるレポーターとして機能することを見出した。これら内部形質膜のレポーター遺伝子を、花粉管発芽直後に精細胞が放出されるanx1 anx2二重変異をもつ植物へと導入し、花粉管内容物の放出と内部形質膜崩壊の関係を調べた。すると、anx1 anx2二重変異によって膨圧の適切な調節を待たずに放出が起きるためか、花粉粒の外側に漏出する花粉管内容物に精細胞が含まれるパターンと含まれないパターンの両方が観察された。興味深いことに、精細胞が花粉粒の外側まで出る場合は速やかに内部形質膜の崩壊が起きるのに対し、精細胞が花粉粒に止まった場合は内部形質膜が安定的に保たれることがわかった。これらの観察から、精細胞の放出にともなう内部形質膜崩壊において、花粉外の環境刺激が重要な役割をはたしていることが示唆された。一方で花粉管の放出時に一過的に発生するといわれる、過酸化水素や細胞内カルシウム濃度上昇は内部形質膜崩壊の決定的なシグナルではないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には3つ研究の進展があった。1つ目は有用な実験材料が整備できたことである。内部形質膜の崩壊を蓄積した蛍光タンパク質の漏出を利用して感度良く検出するためのマーカーラインが得られたことで、これまで内部形質膜の変形でしか判断できなかった内部形質膜の崩壊をタイミングを正確に検出できるようになった。また、花粉管発芽直後に精細胞が放出されるanx1 anx2二重変異体を、選抜する集団を増やすことで強い雄性不稔を超えて作出できたことで、in vitro条件で生理条件に近い花粉管放出を再現することができるようになった。これら材料を用いることで、内部形質膜の崩壊に必要な遺伝学的、生理学的な条件を絞る実験を設計することが容易になった。2つ目は内部形質膜のライブイメージングの観察条件の向上である。細胞核と内部形質膜の二重マーカーを用いた観察はこれまでも行っていたが、スピニングディスク式の共焦点顕微鏡で緑色と赤色の二色の蛍光を同時観察することで、内部形質膜の崩壊の様子について時間分解能の高い動画を取得することに成功した。3つ目は花粉管内容物が放出されたときの精細胞の位置に依存して内部形質膜の安定性に違いがあることを突き止めたてんである。これらの成果をうけ、内部形質膜崩壊の基盤的な知見を報告する準備が整ったと判断し、本年度の研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はこれまでの研究成果を論文としてまとめることに注力する。anx1 anx2二重変異体での内部形質膜の崩壊については十分な量のライブイメージングデータが得られているので、次の段階としては、野生株の花粉管を様々な条件で放出させた時に、どのようなタイムコースで内部形質膜の崩壊が起きていくのかについて比較を行う。さらに、花粉管の内容物放出時に発生する活性酸素種やカルシウムシグナルが内部形質膜の崩壊の直接的な原因とはなっていないという仮説をさらに詰めるため、野生株において花粉管発芽直後に放出が起きる花粉管について、過酸化水素やカルシウムシグナルの発生を伴っていることを確認する。加えて、放出時の精細胞が花粉粒の内部にとどまっている場合には内部形質膜の崩壊率が低下する現象が野生株においても起こっているかどうかについて、ライブイメージングにより確認する。 現在のところ、精細胞が花粉外へと出ることにより、どのような過程で内部形質膜の特異的な崩壊が起こるのか判明していない。そこで、内部形質膜の崩壊がエネルギー依存的な現象である可能性について調べるため、加水分解されないATPやGTPのアナログ分子を添加した培地でanx1 anx2二重変異体での内部形質膜の崩壊を観察する実験を行う。
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Causes of Carryover |
一部予定していた研究内容の英文校閲や論文投稿などを当該年度中に実施できなかったので、2022年度に実験を実施する費用に加え、これらの準備金を確保する必要が生じた。
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Research Products
(2 results)