2020 Fiscal Year Research-status Report
浸透圧応答性分泌ペプチド群によるストレス情報の共有メカニズムの解明
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20K21437
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
高橋 史憲 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (00462698)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 環境応答 / ストレス / ペプチド / 長距離シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに浸透圧ストレス依存的に細胞外に放出されるペプチド・タンパク質を高分解能質量分析装置を使って網羅的に探索、同定を試みて、数十種類の分泌生ペプチドの同定に成功した。そこでさらに候補ペプチドの絞り込みを行う目的で、ペプチド内アミノ酸配列へのタンパク質修飾に着目し、解析を行った。その結果アラビノシル化修飾を受けるペプチドを6つに絞ることに成功した。さらにストレス応答性遺伝子発現解析を行い、最終的に候補ペプチドを1つに絞ることができた。そこで候補ペプチドの遺伝子破壊変異体を取得し、乾燥ストレス耐性試験を行った。その結果、コントロール植物と比較して、ペプチド変異体は乾燥ストレスに対して感受性を示すことを明らかにした。このことは候補ペプチドが乾燥・浸透圧ストレス応答に関わるペプチドであり、分泌生ペプチドによる新たなストレス情報伝達シグナルの基軸を同定することに成功したことを示している。次に、サーモカメラを用いて葉面温度を測定するし、気孔の開閉応答を解析した。その結果、候補ペプチド変異体ではストレス条件だけでなく、コントロール条件で既に気孔が開いており、蒸散量が高いことを明らかにした。このことは候補ペプチドが、環境条件をモニターし気孔の開閉を制御して、乾燥・浸透圧ストレス応答を制御する新たな制御因子であることを示している。さらに同定したペプチド配列のC末端側にT-DNAが挿入されている変異体も取得することができたため、この変異体を用いて乾燥ストレス耐性試験および蒸散量の測定を行った。その結果、この変異体ではストレスに弱い表現型や蒸散量がコントロール植物体と同程度であることが明になった。このことは同定した配列が機能性ペプチドであることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高分解能質量分析装置を用いた分泌ペプチドの網羅的な同定では、予想以上にペプチド・タンパク質候補が検出され、候補ペプチドの絞り込みが難しくなることが予想された。しかしプロリンの水酸化およびアラビノシル化修飾に着目して再解析を行ったところ、最終的に浸透圧・乾燥ストレス応答に関わるペプチドを選抜でき、非常に良い結果を得ることができた。プロリンの水酸化やアラビノシル化修飾は、CLEペプチドを含むこれまでに報告されているペプチドホルモンに多く見られる修飾であることから、非常に重要なペプチド修飾であることが、本研究からも考察できる。さらに今後、新たな分泌生ペプチドをスクリーニングする時の、非常に重要な選抜ポイントになることも示すことができる成果につながった。また候補ペプチドの変異体を取得し、乾燥ストレス耐性試験を行った結果、コントロール植物と比較して、有意な乾燥ストレス感受性を示し、浸透圧・乾燥ストレス応答における重要な因子であることを明らかにできた点も、本研究成果の重要なポイントとなった。特にサーモカメラを用いて、蒸散量の変化を指標に気孔の開閉状態を解析した結果、コントロール状態でもペプチド変異体では蒸散量が高く、気孔が開いていることを明らかにした。このことは候補ペプチドは、ストレス依存的な気孔の閉鎖だけでなく、通常条件でも気孔の制御に関わる因子であることを示唆している。乾燥ストレス耐性試験、および気孔の開閉状態の測定結果を併せて考察すると、植物は候補ペプチドを介して、環境の浸透圧・乾燥条件を常にモニターし、適切に気孔の開閉状態を制御していること、さらにストレス条件ではCLEペプチドだけでなく候補ペプチドも何らかのシグナルを使って気孔応答、ストレス応答を制御しており、複雑なペプチドシグナルネットワークが存在することを示すことができた点も銃と用である。
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Strategy for Future Research Activity |
検出・同定したペプチド配列よりもC末端側にT-DNAが挿入された変異体では、乾燥ストレス耐性や気孔応答が、コントロール植物体と同程度に回復していたことから、同定したペプチド配列がプロセシングを受けて分泌型ペプチドとなり機能していることを示唆することができた。今後は、CRISPR/Cas9法を用いて、ペプチド配列に様々な変異を入れて、ペプチドのプロセシング機構の詳細を明らかにしていく予定である。またペプチド遺伝子のプロモーター配列を使ったプロモーターGUS植物を作製し、ペプチドの組織特異的発現を解析する予定である。さらにコントロール条件およびストレス条件での主要なマーカー遺伝子の発現も、様々な変異体を用いて解析する必要がある。また接ぎ木植物を作製し、分泌ペプチドが植物体内で長距離移動することができるのか、もしくは局所的な応答、特に孔辺細胞の周辺で機能するのか、などの詳細な解析を行っていく予定である。 また現在、G-CaMP3植物体を作成中である。今後はペプチド変異体にG-CaMP3植物を掛け合わせ、ペプチドシグナルとカルシウムシグナルのクロストーク応答も解析できる準備を進めていく。気孔応答では、特にカルシウムシグナルや、カルシウムの下流で働く活性酸素シグナルの存在も報告されているため、これら既存のシグナルと候補ペプチドシグナルがどのように相互作用しているのかを解析することは、非常に重要である。さらにこれまでに申請者が報告しているCLEペプチドシグナルとの関連性も明らかにしていく。現在、受容体変異体に候補ペプチド変異体を掛け合わせた植物体や、受容体変異体に候補ペプチドを過剰発現させた組換え植物体を作成中である。これらを用いて、ペプチドシグナルのクロストークに関しても、その分子メカニズムの解明を進めていく。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ禍となり、研究打ち合わせおよび学会発表のための旅費を使用する計画を修正せざるを得なかった。従って次年度への旅費の繰り越しを行う計画である。また申請者は、理化学研究所から東京理科大学に移籍したため、異動先で申請研究を継続させるために必要な試薬、消耗品を新規で購入するための物品費として使用する計画である。
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Research Products
(5 results)