2021 Fiscal Year Research-status Report
再導入により完全に遺伝管理された鳥類の島嶼隔離個体群の保全・進化生態学研究
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20K21440
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高木 昌興 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70311917)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 温子 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (70761063)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 亜種ダイトウコノハズク / 島嶼個体群 / 個体群動態 / 繁殖成功 / モニタリング / 行動圏 / GPSデータロガー / 再導入 |
Outline of Annual Research Achievements |
南大東島で2-8月まで198巣をモニタリングし、106巣で産卵を確認、86巣で少なくとも1個体の雛が巣立った。繁殖の失敗は、繁殖個体の消失や原因不明の放棄、人為的に移入されたネコやイタチよる雛の捕食である。雛の捕食対策は施しているが不測の事態に遭遇した。北大東島への再導入では、この経験をもとに対策を行う。モニタリング調査を行っている巣で繁殖した親個体のすべてを捕獲し、形態計測、色足輪での標識、採血、遺伝解析を行った。育雛中の8つがいの雌雄にGPSデータロガーを装着した。本種は樹林性の種とされるが、樹林地、畑、並木、民家など様々な環境を利用した。環境の利用様式にも個体差があり、幅の狭い並木沿いに広く行動するつがい、反対に孤立した小面積の樹林地だけで行動するつがいなどが認められた。結果的に行動圏の面積は1.7-32.8haと個体差が大きくなった。行動圏利用の融通性が大きさが、亜種ダイトウコノハズクを樹林が狭く畑が優占する環境で個体群を維持させる要因と考えられる。雛数や給餌頻度は行動圏の面積と関係していなかった。行動圏の面積や形は周囲の個体との関係や餌動物の生産性と関係する。再導入後、繁殖つがい数が少ない段階ではつがい間に干渉は生じないであろう。また雌の行動圏は雄よりも広く、餌を集め育雛を分担し、雄は狭くなわばり防衛の役割を果たした。前年までに足輪をつけた個体を徹底的に探索し、両親が判明している82個体の雄を含め、435個体の雄の鳴き声を録音した。時間周波数解析を行い、形質値の親子回帰分析とランダムに親子を組み合わせる解析により、雄の鳴き声は遺伝形質と示唆された。南大東島では異なる遺伝的形質を持った雌雄が配偶することが判明しており、雌は配偶者相手の鳴き声を避けることで近親交配を回避する可能性が示唆される。なお本年も北大東島には亜種ダイトウコノハズクが生息していないことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、沖縄県の離島、南大東島と北大東島で行うものである。2021年も新型コロナ感染拡大防止の観点から渡航が大きく制限される状況にあった。私自身は野外調査や現地での調整ができない状況が長く続いた。現在のところ移入元の南大東村、移入先の北大東村、また環境省那覇環境事務所などの関係者と共に行うべき作業が不十分である。しかしながら、北大東島への亜種ダイトウコノハズクの再導入にあたり、移入元である南大東島における亜種ダイトウコノハズクの基礎的な生態情報の収集は極めて順調に進んだ。調査は北海道大学理学部学学生と理学院大学院生、日本学術振興会特別研究員によって行われた。南大東島で調査を実施した学生諸氏は、全国的にコロナの罹患者数少なくなったタイミングで南大東島に移動し、2月から8月まで島外に出ることなく調査を行った。また南大東村のご厚意でワクチン接種を受けることができ、難局を凌ぐことができた。島民のみなさまにも日々の生活から様々な面から支えていただいた。渡航制限が幾分緩和された2022年3月には、私自身が南大東島に赴き、集中的な点検作業を実施した。さらに2022年度の学生たちによる調査準備を行った。本プロジェクトは亜種ダイトウコノハズクを北大東島に再導入し、個体群を再度確立させることを目的としているが、究極的には亜種ダイトウコノハズクを絶滅させないことが最終目標である。再導入はまだ実施できておらず、今後も再導入の見通しは立たない状況にある。しかし再導入を成功させるために引き続き行う南大東島における丁寧な野外調査、および研究は、南大東島におけるダイトウコノハズクの保全するために重要な情報をもたらす。詳細な情報は、進化生態学研究に大きく寄与するものとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
北大東島に再導入し定着した亜種ダイトウコノハズクの繁殖成績を評価するために、南大東島における亜種ダイトウコノハズクの繁殖成績をできる限り詳細に調査を実施する。過去二年間の本研究の実績により、モニタリングする巣は198個となり、繁殖に関する正確な情報を集積できる体制が整っている。これまでと同様にモニタリングを実施する巣で繁殖するすべての親個体を捕獲し、形態計測、採血、色足輪での標識、遺伝解析、鳴き声録音を行う。モニタリング巣で育つ雛についても繁殖する親個体と同様の処置を施し、追跡調査を継続する。これまでの調査研究により、行動圏面積、行動圏の環境構造、行動圏の性差を明確にすることができた。今後は繁殖密度や巣間距離などが行動圏に関する変数とどのように関係しているのかを解明する。このような情報は、北大東島に亜種ダイトウコノハズクを再導入し、定着後、個体数が増加する過程での環境利用を推定し、行動追跡をより確実にすることにも役立つ。これまでの調査研究により、鳴き声による配偶者選択に関して最も重要な雄親と雄仔の鳴き声が類似することが示された。今後は孫世代やさらに家系を遡る類似性、婚外仔の異質性の確認を進める。さらに鳴き声や行動特性の調査に注力する。狭い島内の個体の移動分散と鳴き声の関係から、個体数が限定される小さな島における配偶者選択について詳細な記述研究を実施する。2022年度は本科研の最終年度にあたり、再導入のタイミングには必ずしも適していない。今後もコロナ変異株の出現により渡航制限がかかるなど不測な事態が予測される。関係者との連携を強固にし、北大東島への再導入の是非も含め具体的な検討を行う。
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Causes of Carryover |
2020-2021年度はコロナ禍の移動制限により出張、野外調査が十分にできなかった。令和4年度は野外調査が制限された分を撮影装置や録音装置で補い、新たな観察手法で調査を行う。
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Research Products
(15 results)