2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋性無脊椎動物の体液に優占するピロリ菌近縁微生物:移植実験で開拓する新生命現象
Project/Area Number |
20K21447
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中川 聡 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70435832)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | ピロリ菌 / 共生 / 無脊椎動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
「動物の体液は無菌的」という常識に反し、研究代表者らは海洋性無脊椎動物の体液(体腔液)に、1万細胞 /ml以上の細菌が普遍的・恒常的に生息し、それらが周辺海水や消化管等に存在しない特異微生物種であることを発見してきた。本研究は、マヒトデを対象とし(理由:体液にヒトの癌原因菌=ピロリ菌に近縁な特異微生物を大量に宿している。またマヒトデの甚大な漁業被害は喫緊の課題。かつ飼育や捕獲が容易)、その体液特異微生物の生態・生理機能を分子レベルで多元的に解明することを目的としている。具体的には天然・細菌移植実験下において、①体液中の微生物群集構造、宿主と微生物の②発現遺伝子、③代謝物質の3項目時系列解析を行い、「海洋性無脊椎動物は体液に特異微生物を宿し、新しい生理機能を獲得する」という斬新な仮説を検証する。 これまでの研究において、北海道で採取したマヒトデを用いて飼育実験を行い、体腔液中の微生物群集構造(多様性)や量の変化、さらには発現遺伝子、宿主の死亡率・行動(摂餌量)等に関する知見を得ることに成功している。だがトランスクリプトーム解析を進める過程において、塩基配列情報が宿主に大きく偏り、体腔液微生物の発現遺伝子に関する知見がほとんど得られていない試料があることが判明した。そのため飼育実験の一部を再度2022年度に実施し、再現性を検証したうえで、これまでに確立してきた方法を用いて、できるだけ多くの個体・条件において発現遺伝子解析や代謝産物の網羅的解析を組み合わせて実施することにより、体腔液微生物の生理機能に迫る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
移植実験を含む様々な条件下においてヒトデ体腔液(我々の血液+リンパ液に相当)を経時的に採取し、微生物相や量の変化、発現遺伝子、宿主の死亡率・行動等に関する知見を得る方法論を確立してきた。ただいくつかの飼育実験において、マヒトデの死亡速度が極めて速く、そのトランスクリプトーム解析において結果の再現性を検証する必要があることが強く示唆された。このことから、2022年度に生物採取および飼育実験を実施するため、本研究の研究期間を1年間延長した。本実験を実施することができさえすれば、これまで確立してきた方法によりトランスクリプトーム解析とメタボローム解析を完遂し、本研究の目的を問題なく達成することが可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
実施してきたいくつかの飼育実験において、マヒトデの死亡速度が極めて速いものが存在した。これまでの解析において宿主-微生物間相互作用や協調的な環境応答を担ういくつかの遺伝子群を同定することに成功しているものの、今後さらに飼育実験を行い再現性を検証する必要があると判断した。2022年度に生物採取および飼育実験を実施し、これまで確立してきた方法を用いて、できるだけ多くの個体・条件において体腔液微生物の移植実験を行い、発現遺伝子解析や代謝産物の網羅的解析を組み合わせることにより、再現性を担保しつつ体腔液微生物の生理機能に迫る。
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Causes of Carryover |
2021年度は、発現遺伝子に関する網羅的情報の解析(トランスクリプトーム解析)を進め、代謝物質の網羅的解析(メタボローム解析)を実施する予定であった。だがトランスクリプトーム解析を進める過程において、塩基配列情報が宿主に大きく偏り、体腔液微生物の発現遺伝子に関する知見がほとんど得られていない試料があることが判明した。2020年度の実施状況報告書に記載した通り、当該飼育条件において宿主が迅速に死亡したことが原因であると考えられたため、飼育実験の一部を再度実施する必要があると判断した。季節変化を避けるため夏季にサンプリングを行う必要があったが、2021年の夏季はパンデミックの強い影響により、道東での調査および生物を良好なコンディションで持ち帰ることが不可能であった。そこで2020年のRNA試料を再解析することを複数回試みたが、残念ながら冷凍保管中にRNAの分解が進んでおり、解析可能なライブラリを構築することができなかった。以上のことから、2022年度に本実験を実施することで、これまで確立してきた方法によりトランスクリプトーム解析とメタボローム解析を完遂し、本研究の目的を問題なく達成することが可能であると考えている。
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