2020 Fiscal Year Research-status Report
記憶を維持する生物学的相分離によるシグナルタンパク質の濃縮機構
Project/Area Number |
20K21463
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
実吉 岳郎 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00556201)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | CaMKII / 生物学的相分離 / シナプス可塑性 / タンパク質間相互作用 / カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、シナプスが記憶を維持するメカニズムとして、CaMKIIとTiam1から構成されるシグナル複合体が一過的な刺激を長期持続性情報に変換する分子機構であることを報告した。しかし、シグナル複合体を長期間維持するためにはタンパク質そのものを長期間維持する何らかの仕組みがあると思われる。最近、細胞内で特定のタンパク質での液-液相分離という現象が見直されている。相分離したタンパク質は細胞内で区画化されるが、分子は区画内外を移動出来る。つまり、相分離したタンパク質は分子の新陳代謝を乗り越えて酵素活性などの情報を長期間保持すると考えられる。本研究計画は、シナプスでの情報保持機構の新しいモデルとして、相分離により分子活性化状態が維持されるという仮説を立てた。この仮説検証する。 研究計画1 CaMKIIとRhoファミリーシグナル分子は生物学的相分離を起こす タンパク質精製に成功したものは、CaMKII、Pak1, LIMK1、Tiam1、betaPIX、GIT1であり、相分離の条件検討を行なっている。 研究計画2 生物学的相分離による酵素反応効率化の実験的証明 光遺伝学のアプローチで光依存的な相分離を誘導もしくは乖離させた際の反応を検討する。光遺伝学のアプローチに用いるPixD, PixEとの融合タンパク質の発現構築を作成した。培養細胞を使った光刺激の条件を検討している。 研究計画3 分子間相互作用のスパイン内での挙動の観察と光操作 スパインでLTP誘導時のCaMKIIとLIMK1、Pak1との相互作用をFRET法で観察する。また、LTP成立後に相分離を操作した際の影響を調べる。海馬神経細胞にLTP誘導時におけるCaMKIIとLIMK1、Pak1との相互作用をFRET法で観察すると生化学反応とは異なる時間軸で相互作用が観察された。現在このメカニズムを検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タンパク質の大量精製が相分離実験の鍵となるが、おおむね十分な精製度と収量が得られた。今年度にタンパク質試料を使った相分離実験が可能となっている。ただ、精製がうまくいかないタンパク質については、可溶性、収量の向上のためそれなりの労力が必要となると思われる。相分離の光操作実験のためのPixE/PixDプローブは構築そのものは完了しているため、光刺激の条件検討を行っているところである。期待通りの反応が見られれば神経細胞での反応を見る実験に進む。期待通りではない場合、リンカー長の最適化と別の光感受性タンパク質Cry-oligoなどを検討していく。また、LTPのライブイメージングでも興味深い現象が見られており、相分離との関連を明らかにしていきたい。神経細胞は光ダメージに弱いため、神経細胞での条件検討も必要であるため、光刺激による表現型の特異性については慎重に見極めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画1 CaMKIIとRhoファミリーシグナル分子は生物学的相分離を起こす タンパク質精製プロトコールの確立に成功したもの、検討中のものがある。CaMKII、Pak1, LIMK1、Tiam1、betaPIX、GIT1については大量精製に成功したので、相分離を起こす組み合わせ、イオン強度条件などを検討していく。今年度にタンパク質試料を使った相分離実験が可能となっている。ただ、精製がうまくいかないタンパク質については、可溶性、収量の向上のためそれなりの労力が必要となると思われる。選択肢として昆虫細胞発現系、可溶化タグの変更などを試みる。 研究計画2 生物学的相分離による酵素反応効率化の実験的証明 光遺伝学のアプローチで光依存的な相分離を起こした場合、乖離させた場合の細胞反応を検討する。光遺伝学のアプローチに用いるPixD, PixEとの融合タンパク質を作成した。培養細胞を使った光刺激の条件を検討している。期待通りの反応が見られれば神経細胞での反応を見る実験に進む。期待通りではない場合、リンカー長の最適化と別の光感受性タンパク質Cry-oligoなどを検討していく。 研究計画3 分子間相互作用のスパイン内での挙動の観察と光操作 生きているスパインでLTP誘導時のCaMKIIとLIMK1、Pak1との相互作用をFRET法で観察する。また、LTP成立後に相分離を操作した際の影響を調べる。海馬神経細胞にLTP誘導時におけるCaMKIIとLIMK1、Pak1との相互作用をFRET法で観察すると生化学反応とは異なる時間軸で相互作用が観察された。現在このメカニズムを検討中である。神経細胞は光ダメージに弱いため、神経細胞での条件検討も必要であるため、光刺激による表現型の特異性については慎重に見極めていきたい。
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Causes of Carryover |
研究はおおむね計画通りに順調に進捗しているが、当初の予定よりもタンパク質精製方法の確立に時間がかかっており、神経細胞を使った実験が進められていないのが大きな原因である。一旦プロトコールが確立すれば、そちらに使っていた労力と時間を神経細胞培養、イメージングに使えるため、今年度は、昨年度より消耗品の単価が高い実験が多くなる予定である。
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