2021 Fiscal Year Research-status Report
血管およびリンパ管の恒常性制御は、癌転移抑制法となりうるか?
Project/Area Number |
20K21569
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
新藤 隆行 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (90345215)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神吉 昭子 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (10397309)
桜井 敬之 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (80317825)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 転移 / 血管 / リンパ管 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、癌の転移を確実に抑制する方法は存在しない。我々は、従来の治療法の様に癌細胞だけに注目するのではなく、癌微小環境、癌の増殖や転移に関わる血管やリンパ管、さらには転移先となる組織の環境を、一つの生体システムとして捉えるコンセプトが、革新的な癌の転移抑制法開発に繋がると考えた。中でも血管・リンパ管の恒常性の破綻や異常増殖は癌の病態に密接に関与していることから、我々は、血管・リンパ管の恒常性制御の観点から、癌転移を抑制する新しいアプローチを考えた。 アドレノメデュリン(AM)はこれまで主として循環調節ホルモンとして研究されてきた一方で、我々は、AMが血管・リンパ管の発生そのものに必要な因子であること、さらにAMが成体における血管・リンパ管の恒常性維持にも必須であること、AMのこれらの作用が、AMの受容体に結合する受容体活性調節タンパクであるRAMP2によって制御されていることを明らかとしてきた。 RAMP2-/-は胎生致死のため、成体での解析が不可能である。そこで我々は、薬剤誘導型の血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスを樹立し、成体での機能解析を可能とした。 癌転移における組織、臓器間の連携に着目し、転移前土壌形成因子、腫瘍細胞遊走促進因子などが明らかとなれば、癌転移抑制のための新しい治療戦略の足掛かりとなる。さらにRAMP2は、低分子の1回膜貫通型タンパクであるため、立体構造解析と、それを利用した結合化合物探索が比較的容易である。 本研究では、AM-RAMP2システムによる血管・リンパ管制御機構を人為的に制御する方法を検討し、癌転移を抑制する治療法として応用展開をはかる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アドレノメデュリン(AM)は血管拡張性ペプチドとして同定されたが、それ以外にも様々な作用を有することが知られている。 我々は、AMとその受容体活性調節タンパクRAMP2が血管の発生と恒常性維持の双方に不可欠であり、それらのノックアウトマウスは血管の異常で胎生致死となることを見出した。本研究では、AM-RAMP2系の癌増殖や転移における役割を明らかとするために、誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)を用いた検討を行った。 DI-E-RAMP2-/-では、皮下移植した癌細胞の原発巣における血管新生と癌増殖が抑制される一方で、足底部にメラノーマ細胞を移植し、一旦それを切除した後に生じる自然肺転移が著明に亢進していた。RAMP2欠損誘導後の肺では、細胞骨格異常を伴う内皮細胞の形態異常や血管透過性亢進が生じ、癌細胞遊走因子の高発現を認め、「転移前土壌」が形成されることが明らかとなった。 次に、ルイス肺癌細胞を用いたリンパ節転移の検討においても、DI-E-RAMP2-/-ではリンパ節転移の亢進が見られた。DI-E-RAMP2-/-では、リンパ節内の高内皮細静脈の構造異常が認められた。一方で、DI-E-RAMP2-/-とは異なり、リンパ管内皮細胞特異的RAMP2-/-(DI-LE-RAMP2-/-)ではリンパ節転移に変化を認めなかった。 以上の結果から、血管恒常性の破綻は、癌細胞の血行性転移だけでなく、リンパ行性転移亢進にもつながることが明らかとなった。AM-RAMP2系が有する血管恒常性維持作用は、癌転移抑制のための新しい治療標的となることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
① 癌転移における血管内皮細胞由来の細胞外小胞の意義の解明 癌細胞は、他の細胞が分泌するエクソソームを、自身の増殖や転移に巧みに利用していることが示唆されている。DI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞では、多数の微小突起や細胞外小胞の存在が確認される。DI-E-RAMP2-/-の内皮細胞では、炎症刺激後に分泌される細胞外小胞、特にエクソソームが増加し、転移に促進的に働いていることが示唆される。本研究では、セルソーターによってエクソソームを回収し、エクソソームが含有するmicroRNAの網羅的解析を進め、腫瘍遊走因子や転移前土壌形成因子を同定する。
② 癌転移におけるAM-RAMP2、3系の相互作用の解明 これまでの検討で、DI-E-RAMP2-/-とは逆に、RAMP3ノックアウトマウス(RAMP3-/-)では癌の転移が抑制されるという結果が得られている。本研究では、DI-E-RAMP2-/-およびRAMP3-/-から癌関連線維芽細胞(CAF)の単離培養を行い、増殖や遊走性、細胞骨格、増殖因子分泌などの表現型を比較検討する。これらの結果を、AM-RAMP2系とAM-RAMP3系の機能分化や相互作用の解明の端緒とする。さらに、RAMP3-/-に対しAMを持続的に投与することで、AM-RAMP3系の選択的阻害と、AM-RAMP2系の選択的活性化状態を作り出し、癌転移抑制に繋がるか検証する。
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Research Products
(11 results)
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[Journal Article] Adrenomedullin-RAMP2 system ameliorates pulmonary fibrosis by regulating TGF-β-Smads pathway and differentiation of myofibroblasts.2021
Author(s)
Wei Y, Tanaka M, Sakurai T, Kamiyoshi A, Ichikawa-Shindo Y, Kawate H, Cui N, Kakihara S, Zhao Y, Aruga K, Sanjo H, Shindo T.
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Journal Title
Endocrinology.
Volume: 162
Pages: 1-22
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Adrenomedullin-RAMP2 and -RAMP3 systems regulate cardiac homeostasis during cardiovascular stress.2021
Author(s)
Cui N, Sakurai T, Kamiyoshi A, Ichikawa-Shindo Y, Kawate H, Tanaka M, Tanaka M, Wei Y, Kakihara S, Zhao Y, Aruga K, Kawagishi H, Nakada T, Yamada M, Shindo T.
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Journal Title
Endocrinology
Volume: 162
Pages: 1-20
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Adrenomedullin-RAMP2 system ameliorates subretinal fibrosis by suppressing epithelial-mesenchymal transition in age-related macular degeneration.2021
Author(s)
Tanaka M, Kakihara S, Hirabayashi K. Imai A, Toriyama Y, Iesato Y, Sakurai T, Kamiyoshi A, Ichikawa-Shindo Y, Kawate H, Tanaka M, Cui N, Wei Y, Zhao Y, Aruga K, Yamauchi A, Murata M, Shindo T.
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Journal Title
Am J Pathol.
Volume: 191
Pages: 652-668
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Mid-regional pro-adrenomedullin is a novel biomarker for arterial stiffness as the criterion for vascular failure in a cross-sectional study.2021
Author(s)
Koyama T, Kuriyama N, Suzuki Y, Saito S, Tanaka R, Iwao M, Tanaka M, Maki T, Itoh H, Ihara M, Shindo T, Uehara R.
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Journal Title
Sci Rep.
Volume: 11
Pages: 305
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] Homeostatic Regulation of High Endothelial Venules and Suppression of Lymphatic Metastasis by Adrenomedullin-RAMP2 System2022
Author(s)
Tanaka M, Sakurai T, Kamiyoshi A, Ichikawa-Shindo Y, Hisaka K, Kakihara S, Zhao Y, Matsuda Y, Aruga K, Kasahara T, Shindo T
Organizer
第86回日本循環器学会
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