2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K21604
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小川 佳宏 九州大学, 医学研究院, 教授 (70291424)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 副腎皮質腫瘍 / 機能性 / ホルモン / 網羅的解析 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
内分泌腫瘍はホルモン産生能の有無を考慮すべきユニークな腫瘍である 。副腎皮質腫瘍の多くは良性腫瘍であり、腫瘍の機能性はミネラルコルチコイド代謝産物であるアルドステロンあるいはグルココルチコイド代謝産物であるコルチゾールの過剰産生の過剰産生が認められる場合に「機能性」と判定され、いずれも過剰産生しない場合は「非機能性」と判定される。初年度は、従来の臨床診断において、アルドステロン産生腫瘍(APA)、コルチゾール産生腫瘍(CPA)、非機能性副腎皮質腫瘍(NFA)あるいは非副腎皮質腫瘍(対照群)と診断された症例の腫瘍組織を対象として、免疫組織染色、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS法)を用いたメタボローム解析(ステロイドミクス解析)、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析、イメージング質量顕微鏡によるオミクス解析を実施した。免疫組織染色においては、アルドステロン合成酵素の発現はAPAにのみ認められたが、コルチゾール合成酵素はAPA、CPA、NFAのいずれでも認められた。トランスクリプトーム解析では、コルチゾール合成関連遺伝子の発現がAPA、CPA、NFAで認められた。腫瘍組織中のステロイドミクス解析では、CPAのみならず、従来、コルチゾールは生合成されないと考えられていたAPAとNFAにおいても低値ではあるが、対照群と比較して有意なコルチゾールの上昇がみられた。イメージング質量顕微鏡によりコルチゾール生合成の局在を検討したところ、APAとNFAにおいても腫瘍細胞において、機能的なコルチゾール生合成が確認された。一方、ゲノム解析により、CPAではコルチゾール生合成において重要な代謝経路であるPKAの活性化に関連するGNASやPRKACA遺伝子の体細胞変異が検出されたが、APAとNFAでは検出されず、異なる機序によるコルチゾール合成機構が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は本研究課題における主要項目である組織検体解析の基盤構築を重点的に実施した。ゲノム解析では副腎皮質腫瘍に関連する約30遺伝子を網羅的に評価可能な疾患遺伝子パネルの構築に成功し、ゲノム解析を進めている。副腎腫瘍(APA、CPA、NFA)において、イメージング質量顕微鏡によるアルドステロン、コルチゾール、コルチゾンの可視化に成功し、新規性の高い研究成果であるため、論文投稿準備中である。免疫組織染色、トランスクリプトーム解析、ステロイドミクス解析のいずれも高い精度で実行可能であり、本研究課題の推進に必須であるオミクス解析のプラットホーム作成を初年度に達成した。ステロイドミクス解析では、当初は15種類のステロイドプロファイリングが可能な測定系であったが、初年度に改良を重ねて72種類のステロイド代謝産物の測定が可能となり、より網羅的な解析が可能となった。次年度以降の解析に必要となるレーザーマイクロダイセクション(LMC)による腫瘍内あるいは付随副腎組織における機能性部位と非機能性部位よりDNA/RNA採取技術を確立した。取得可能なDNA/RNA収量は微量ではあるものの、次世代シークエンサーによるゲノム解析、トランスクリプトーム解析の実施可能性を確認した。次年度の血液検体解析、患者情報の統合のために必要となる疾患データベースの構築を推進し成果として、複数の英文原著論文を報告した。各階層の解析により得られた情報の統合解析に必要となる機械学習として、教師あり学習の手法であるランダムフォレスト法を用いた疾患予測モデルの構築に成功し、英文原著論文に報告した。以上のように初年度は、一連の解析方法の構築と改良により、次年度以降の研究を円滑に推進する準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の実績を踏まえて、1)腫瘍検体のシングルセルトランスクリプトーム解析、2)血液検体のステロイドミクス解析、3)機械学習による統合的解析を推進する。初年度にヒト正常副腎を対象とした基礎検討を実施しており、副腎組織のシングルセルソーティングとゲノム解析に成功している。今年度は腫瘍組織および付随副腎正常部を含むシングルセル解析およびVisiumによる位置情報を保持した空間的遺伝子発現解析を実施し、単一細胞レベルで機能性部位、非機能性部位、機能性腫瘍、非機能性腫瘍の差異を明らかにする。血液検体のステロイドミクス解析では初年度に確立した網羅的なステロイドプロファイリングに基づき、従来の臨床診断により機能性腫瘍あるいは非機能性腫瘍と診断された腫瘍組織検体におけるステロイド代謝産物の多様性と血中ステロイド代謝産物の相関を検討する。機械学習による統合的解析では、教師あり機械学習により網羅的解析により得られる情報と臨床情報を統合し、得られた結果を既存の機能性・非機能性の枠組みに当てはめて既存の分類法の妥当性を評価する。教師なし機械学習によるクラスター解析により、副腎腫瘍の機能性と非機能性の新しい概念を踏まえて再分類を試みる。
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Research Products
(9 results)