2020 Fiscal Year Research-status Report
自閉症と聴覚障害の併発メカニズムの解明と治療への応用
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20K21650
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西山 正章 金沢大学, 医学系, 教授 (50423562)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 自閉症 / 聴覚障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉症はコミュニケーション能力の質的障害および常同・反復的な興味・行動で特徴付けられる非常に発症頻度の高い発達障害であり、発症メカニズムの解明と治療法の開発が強く求められている。自閉症患者では、聴覚障害を含めた様々な感覚異常が認められるが、これらがコミュニケーション障害の原因か結果かについてはほとんどわかっていない。近年、クロマチンリモデリング因子CHD8が自閉症の最も有力な原因候補遺伝子として報告された。われわれは自閉症患者のCHD8変異を再現したヘテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、自閉症様の行動異常を再現することに成功した。その後の研究によって、このマウスはミエリン形成の低下やランビエ構造の異常等を示し、聴覚障害を来すことが判明した。Chd8へテロ欠損マウスを用いて、聴性脳幹反応(ABR)やプレパルス抑制(PPI)等の聴覚検査を行ったところ、このマウスではPPIが増加しており、ABRにおいて潜時の延長を認めた。そこで、われわれは聴覚伝導路のオリゴデンドロサイトにおけるCHD8の機能に着目した。聴覚伝導路において、Chd8へテロ欠損マウスはミエリン形成の低下を示した。さらに、オリゴデンドロサイト特異的Chd8へテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、全身Chd8へテロ欠損マウスで観察された行動異常の一部が再現されることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
聴覚伝導路において、Chd8へテロ欠損マウスはミエリン形成の低下や神経伝導速度の低下などを示した。さらに、オリゴデンドロサイト特異的Chd8へテロ欠損マウスは、全身Chd8へテロ欠損マウスで観察された行動異常の一部を再現することが判明した。これらの結果から、CHD8変異→オリゴデンドロサイト機能異常→聴覚障害→コミュニケーション障害という因果関係が推測され、聴覚障害がコミュニケーション障害の原因であることが示唆された。これらの知見は当初の研究目的に適っており、順調に達成されつつあると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
全身Chd8へテロ欠損マウスにおける聴覚検査と病理学的解析により、聴覚障害の原因となりうる責任病変を特定する。われわれはすでに、Chd8遺伝子の途中にCre依存的に離脱可能なストップ配列を挿入したChd8ヘテロ欠損マウスの作製に成功している。このマウスにおいて、明らかになった責任病変にCHD8を発現誘導し、聴覚障害および自閉症様の行動異常が改善されるかどうかを検討する。さらに、同責任病変に対して再ミエリン化促進剤や光遺伝学による治療実験も行う。
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