2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of the rapid diagnostic method for RNA virus infections by use of a Nanopore sequencer
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20K21698
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
井戸 栄治 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任教授 (70183176)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 感染症 / デング熱 / チクングニア熱 / 迅速診断法 / ナノポア / 新型コロナウイルス / 変異株 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、世界の各地で様々なRNAウイルス感染症が頻回に発生し、人類の健康と生命を脅かしている。本研究は、超小型のナノポア・シークエンサーMinIONを活用することにより、感染症対策にとって最重要な病原体の迅速鑑別診断法を開発することを目的としている。MinIONは手のひらサイズという小ささに加え、特殊な研究設備・機器を必要としないため、例えばアフリカのジャングル奥地のような厳しい環境下でも使用可能である。感染症アウトブレイクの予兆をいち早く察知するには、極めて有用なツールの一つになると期待されている。 本研究立案当時は、蚊で媒介されるウイルス感染症(チクングニア熱やデング熱など)が熱帯・亜熱帯の国々を中心として流行を繰り返し猛威を奮っていた。そこで研究初年度は、先ずはMinIONによる解析に好適な材料を取り揃えることから着手した。タイミング良く、2019年にはコンゴ共和国においてチクングニア熱の大流行が起こり、感染疑い患者103名の検体が得られ、内47名よりVero細胞で顕著なCPEを起こすウイルスの分離に成功した。2020年にはコンゴ民主共和国においてデング熱疑い患者2名に遭遇し、同様にウイルスが分離された。RT-PCR後の古典的な手法による配列分析によって、それぞれ前者はアフリカ中央・南部で流行しているチクングニアウイルスの変異型であること、一方、後者は血清型が2型と3型と相異なるデングウイルスであることが判明した。 また2020年は、新型コロナウイルスが世界的に流行し、緊急課題となったことは衆知の通りである。そのため、同ウイルスも急遽研究対象として加えることにした。現在までに、各種ウイルスの全ゲノム解析をMinIONで進められるよう、それぞれ6kb~10kb長のPCR産物が全て用意されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、本研究で目標としている超小型のナノポア・シークエンサーを用いたRNAウイルス感染症の鑑別診断法開発に必須な検体試料の入手、およびその予備的解析に重点を置いて研究が進められた。その結果、近年新興ウイルス感染症として大いに注目されているチクングニア熱やデング熱の貴重な臨床検体が多数得られ、それぞれからウイルスも分離されるなど絶好の研究材料が得られたことは大きな進展であったと言えるであろう。 また、偶然ではあったが、2020年初頭から中国に端を発し、世界中に感染拡大した新型コロナウイルスは、本研究課題にとっても最適の対象疾病であり、これについてもウイルスが分離され、ナノポア・シークエンサーMinIONによる解析の検討材料として使用できるようになった意義は大きい。 ただ一点だけ気掛かりなのは、新型コロナウイルスの世界的流行の影響を受けて、MinIONの消耗品であるフローセルの入荷が当初予想に比してかなり時間を要している。貴重な研究ツールなので、無駄にしないよう慎重に実験を進めなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、ナノポア・シークエンスのための検体試料については十分に確保されたと言える。今後は、実際にMinIONを用いた解析を進めることが研究の中心になる予定である。 当面の目標は、チクングニアウイルス、デングウイルス、そして新型コロナウイルス、3種類それぞれの全ゲノムを2ないし3分割した6kb~10kb長のRT-PCR産物、即ち長いDNA断片が得られているので、最も標準的な解析法であるLigation kitを用いたアダプター添加による読み込みの条件検討から始める予定である。使用するフローセルとしては、標準のセルに加え、更に小型のFlongleと呼ばれる新製品のセルの使用も試みたい。ウイルスの場合、染色体DNAに比してゲノムサイズが遥かに小さいため、Flongleでも解析が可能な筈であり、これにより大幅なコストダウンとスピードアップが図れるからである。 なお、上記の方法によるウイルス遺伝子の全ゲノム解析(変異株の解析に必須)は飽くまで当面のゴールである。本研究の最終目的は、ナノポア・シークエンサーMinIONによるRNAウイルス感染症の迅速診断法確立にある。そのため最終段階では、RT-PCRの手順を飛ばしてウイルス病原体のRNA分子を直接シークエンサーにかけて解析することに挑戦したい。RT-PCRをするためには、病原体についてある程度目途が立っていなければプライマーの選定すら出来ない。しかしナノポアでは、1本鎖のDNA分子が通過する時の他、1本鎖のRNA分子が通過する時にも電気信号を拾えると謳われている。仮に原因不明の疾病が突如発生した時に、たとえ一部であれ遺伝子の配列が読み取れるのであれば、それが既知の病原体であるのか、あるいは未知の病原体であるのか、早期鑑別診断への手掛かりが短時間の内に得られると期待されるからである。
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Causes of Carryover |
物品費については、消耗品の中で大きな割合を占めると予想されたナノポア・シークエンサーMinION用のフローセルの入荷に思いの外時間が掛かり(約2ヶ月)、結果として初年度の発注量が少なくなったことが主な理由である。ただし、こちらについては現在解析すべき検体が多数待機している状態なため、次年度に入れば相当量の注文がされる予定である。 その他については、初年度中に論文投稿を予定し、その印刷費等を計上していたのであるが、年度内の投稿が叶わず未執行となったことが主な理由である。こちらについては、近々投稿するので確実に使用される見込みである。
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Research Products
(4 results)