2020 Fiscal Year Research-status Report
栄養-代謝-エピゲノム軸による細胞機能調節の仕組みを解明
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20K21747
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 寿郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80323020)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 環境 / エピゲノム / 栄養 / 代謝シグナル / 脂肪細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満に起因した生活習慣病の予防や病態制御の解明は医学・健康科学の大きな課題である。生活習慣病発症に脂肪細胞の機能破綻が原因で発症するメカニズムが注目され、脂肪細胞の機能制御メカニズムの解明は一層重要な課題となってきている。 しかし、変化する栄養環境に、どのように(前駆)脂肪細胞は運命決定され、環境に適した機能(栄養を脂肪として蓄えるのか、又、これとは逆に脂肪を燃焼させるのか)の脂肪細胞に分化し、個体の環境適応に寄与していくのか、代謝シグナルと細胞運命決定のメカニズムは十分に解明されてはいない。本研究では、環境からの代謝のシグナルがエピゲノム機構を介して遺伝子発現そして細胞の機能を変化させるかを解析し、その詳細な機構を解明することを目的とする。そして脂肪細胞は細胞外の栄養を代謝することで感知し、糖を脂肪という形で蓄積する機能を得するかエピゲノムレベルで解明する。 具体的には、(1)脂肪細胞の解糖速度と脂肪蓄積解析、(2)転写解析(解糖系遺伝子群、脂肪細胞の分化の鍵となるマスターレギュレーター転写因子群)(3)メタボローム解析(細胞外のグルコース濃度によってエピゲノム酵素の補酵素・基質となりうる代謝物 (α-ケトグルタル酸: αKGなど) の蓄積にどう反映されているか)、(4)ヒストンメチル化(転写抑制系ヒストンメチル化 (H3K9me2, me3))の解析、(5)イソクエン酸デヒドロゲナーゼをノックダウンすることでαKGの合成を抑制し、低グルコース処理と同様に、解糖系遺伝子発現が低下するかの解析、(6)解糖系遺伝子転写を制御するヒストン脱メチル化酵素を同定。(7)グルコース依存的なヒストン脱メチル化酵素複合体の特定を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要で行うべき項目(1)-(6)についての進捗は以下の通りであり、おおむね順調に進んでいる (1)脂肪細胞の解糖速度と脂肪蓄積解析--高濃度もしくは低濃度グルコースの細胞培地条件下で3T3-L1前駆脂肪細胞を分化誘導し、脂肪蓄積(オイルレッドO染色)や解糖系の速度解析をし、グルコース濃度に応じて脂肪蓄積がなされ、解糖系の速度がすすむのを確認した。(2)転写解析からは、この条件下で、① 解糖系遺伝子群、② 脂肪細胞の分化の鍵となるマスターレギュレーター転写因子群の遺伝子発現解析では、糖取り込み(グルコーストランスポーター Glut4/Slc2A)や解糖系遺伝子群 (Hk2など) が、グルコース濃度にかかわらず脂肪細胞として分化していることを確認した。(3)メタボローム解析では細胞外のグルコース濃度によってエピゲノム酵素の補酵素・基質となりうる代謝物 (α-ケトグルタル酸: αKGなど) の蓄積に亢進が認められた。(4)ヒストンメチル化解析では細胞外グルコース濃度により(2)の解糖系遺伝子群や脂肪分化マーカー遺伝子の転写抑制系ヒストンメチル化 (H3K9me2, me3) が低下していた。グルコースは解糖系からTCA回路で代謝される過程でαKGが合成される。 (5)イソクエン酸デヒドロゲナーゼをノックダウンすることでαKGの合成を抑制し、低グルコース処理と同様に、解糖系遺伝子発現が低下する端緒的データを取得している。(6)解糖系遺伝子転写を制御するヒストン脱メチル化酵素を特定した。
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Strategy for Future Research Activity |
解糖系遺伝子転写を制御するヒストン脱メチル化酵素を同定-αKGが補酵素ととするH3K9me2の脱メチル化酵素の系統的RNA干渉法によるノックダウン実験から、グルコース濃度変化によって解糖系遺伝子群の転写を制御するヒストン脱メチル化酵素を特定した(概要1-6)。 今後、この特定された酵素を検証し、① 当該酵素のChIP-Seqからゲノムにおける結合モチーフを解析するとともに、概要7の項目を行う。 ② グルコース依存的なヒストン脱メチル化酵素複合体の同定(概要7)。当該酵素のプロテオミクスからグルコース依存的なタンパク質複合体を解析する。とくに、結合モチーフと関連させて何の転写因子が解糖系遺伝子に当該酵素をリクルートするのかを解析する。高、低グルコース濃度下、あるいは栄養センサーAMPキナーゼ (AMPK) を薬剤(メトフォルミン)で活性化させ、細胞内AMP/ATP比が上昇、すなわち細胞飢餓(=低グルコース環境下)の条件下で、ヒストン脱メチル化酵素の複合体をプロテオミクス解析し、細胞内エネルギー状態(解糖系)依存的にリクルートされるタンパク質複合体(転写因子を含む)を同定する。以上より、代謝入力が、解糖系遺伝子の転写をエピゲノムレベルで制御し、細胞の性質を決定するメカニズムを明らかとする。
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Causes of Carryover |
理由:次年度の実験に使用するため ① タンパク質複合体を質量分析から解析 ② リン酸化部位を質量分析から同定 ③ ChIP-Seqによるゲノムワイドな結合部位、結合モチーフ解析
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[Journal Article] Metabolic flexibility via mitochondrial BCAA carrier SLC25A44 is required for optimal fever2021
Author(s)
Yoneshiro T, Kataoka N, Walejko JM, Ikeda K, Brown Z, Yoneshiro M, Crown SB, Osawa T, Sakai J, McGarrah RW, White PJ, Nakamura K, Kajimura S.
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Journal Title
Elife
Volume: 10
Pages: e66865
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Ubiquitination dependent and independent repression of target genes by SETDB1 reveals a context dependent role for its methyltransferase activity during adipogenesis2021
Author(s)
Zhang J, Matsumura Y, Kano Y, Yoshida A, Kawamura T, Hirakawa H, Inagaki T, Tanaka T, Kimura H, Yanagi S, Fukami K, Doi T, Osborne TF, Kodama T, Aburatani H, Sakai J.
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Journal Title
Genes to Cells
Volume: in press
Pages: in press
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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